1.活動の背景説明
セルロイド産業文化研究会は平成12年(2000年)にセルロイドに関係していた人達を中心に集まり、第1回セルロイドカンファレンスを開催してセルロイド産業史とセルロイドが生活文化に与えた影響を考察するとともに文献・製品の収集をして調査、研究をすべく活動を開始した。
1870年米国のハイヤットによる硝化綿/樟脳組成物及び成型法に関する特許が成立、それ以降セルロイド産業が欧米で急速に発展した。
日本には、1877年(明治10年)に初めて輸入された。
セルロイドは工業化された最初の合成プラスチック(厳密にはセルロースを原料とする半合成プラスチック)であり、今日のプラスチック産業の先駆けとして製造と加工技術の発展に果たした存在は大きいといえる。
明治政府の産業振興策としてセルロイドの国産化が国策として奨励された背景には、日清戦争の結果、主原料である樟脳の産地である台湾が日本領土となり国内調達が可能となったことである。
工業化にあたっては幾多の困難があったが、先人たちの努力によって克服し遂には欧米を凌駕して1937年(昭和13年)には世界1位の生産国にまで発展した。
セルロイド製造は従来の手工業から工業生産システムへ変化していき、更に加工産業が繁栄していった背景には設備への資本投下が少なく家内工業的産業であった点があげられる。現在の産業のすそ野の広がりに繋がっている。
セルロイドの発明された目的は天然素材の象牙の代用品であった。
更にべっ甲、珊瑚などの代用品として使用が始まり、多くの用途が開発され、凡そ25,000種以上の製品用途が生まれている。
主な用途を記載する
頭髪用品 |
櫛類、ヘアーブラシ、ヘアーピン |
化粧用品 |
石鹸箱、コンパクト、パフ入れ、クリーム入れ、 |
装身具 |
眼鏡枠、腕輪、詰襟カラー、ボタン |
履物 |
靴かかと、靴ベラ、下駄貼り |
文房具 |
万年筆、ペン軸、筆箱、計算尺、定規類、下敷き、算盤 |
日用品 |
歯ブラシの柄、傘の柄、湯桶、洗面器、裁縫箱、定期入れ、ナイフの柄 |
玩具 |
人形、風車、お面、ガラガラ、オルゴール、メリーゴーランド |
運動具 |
卓球ボール、スキーソール、ゴルフのネックソケット |
楽器 |
ギター飾り、ギターピック、ドラム胴張 |
医療用品 |
眼帯、浣腸器、コルセット |
工業用品 |
バッテリーケース、目盛板、銘板、秤量皿 |
その他 |
名札、カメラ、印鑑、置物、パチンコ化粧貼り |
先進の欧米諸国に遅れて市場に参入した、我が国のセルロイド産業が世界有数の生産国になった背景や原因について検証することが、今後のプラスチック産業発展の参考になることを思い調査研究活動進めていく。
2.セルロイド産業文化研究会の活動状況
本研究会はセルロイド産業全般についてについて産業経済面と社会文化的視点の両面から総合的及び包括的に調査研究を進め、我が国の経済、産業及び文化に及ぼした影響を定性的及び定量的に、入手可能の第一次文献と直接的資料をベースに解明を続け、学会発表と調査報告書等の公開を通じて実施していく。
本活動はまず調査研究等のソフト面は主としてセルロイド産業文化研究会が担当し、ハード面はセルロイドライブラリ・メモワールハウス本部が総括し、関東地区はセルロイドハウス横浜館が、関西地区は大阪セルロイド会館に拠点を置く大阪セルロイド産業文化調査研究チームが担当している。
セルロイドに関する製品、材料、金型、治工具、加工機器その他図書、文献、新聞雑誌資料、企業カタログ、オーラルヒストリ、種々の記録、関係者のノート類、日誌、メモ類、業界の会報、会議記録、団体及び会社の機関誌、社誌、販促資料とパンフレツト類、官庁と工業会との議事録、海外取引先及び国内取引先との取引関連直接資料や社内および販売先記録の他、業界紳士録、写真や音声テープ等の媒体記録情報を含むおよそセルロイドに関する製品と紙ベースの資料を広範囲に収集しており、加工機器及び冶具類、金型、セルロイド記事と製品、図書と雑誌類、文献情報類を含めて約100,000点を収蔵しており、この分野では世界有数とされている。
3.本研究会の今後の計画と目標
本研究会は平成11年(1999)より20年間を重点活動期間としている。
第1期は平成11年(1999)より平成17年(2005)のセルロイドハウス横濱館の開館までの期間である。
この期間は積極的に業界関係及び関連工業界や協会及び学会、大学及び研究者、博物館や資料館等と協力し、交流を深めるほか、調査研究等を発表するカンファレンスや人的交流を主要目的とするシンポジウム等に力を入れ、セルロイドに関する関心を高める活動を続けてきた。
第2期の平成18年(2006)から平成22年(2010)までは広域的にセルロイド製品や金型等の収集、文献及び図書、雑誌等の収集や受け入れを精力的に実施し、多大な成果をあげてきた。
第3期は平成23年(2011)より平成32(2020)までは、セルロイドハウス横濱館に収蔵している収集品及び各種文献情報と資料の整理と目録作り及びデータベース化を中心とした地道な作業を東京及び大阪のチームがそれぞれ協力者ネットワークを拡充しつつ、活動を続けている。
東京チームは特に第一次資料と業界の作成した機関誌や会報やメモ・日誌類をベースに調査を続けている。
大阪チームはセルロイドのかつての製造企業や代理店及び問屋や加工業者と接触し、関西地区における問屋、小売及び加工業者の状況、商取引の実態について直接資料や関係者等への聞き込み等を通じてミクロからマクロに至るセルロイド加工業の実態と社会文化面に及ぼした影響を解明する作業を続けている。
東京チームは今後の重要な課題として硝化綿工業会から寄贈を受けたセルロイドに関する貴重な資料の研究を平成32年(2020)より特任専門調査担当者を選任し、協力機関又は大学等と連携してプロジェクトを開始する予定である。
4.終わりに
温故知新はどの分野でも重要なキイワードであるが、特にセルロイド産業にはこの格言が良くあてはまると思われる。
セルロイド産業の栄枯盛衰とその歴史的役割とその成果は他産業の比較研究と今後の新産業の出現、成長と発展、消滅及び将来予測に結びつく研究の重要な事例となり、研究成果は広く産業史の事例研究に裨益するものと確信している。
今日地球環境の悪化に伴い使用される産業材料にはエコマテリアルやリサイクル材料の必要性が求められており、その要望が益々大きくなりつつある。
残念ながら、セルロイドは産業の表舞台から退場したが、セルロイドの後継素材として登場した生分解性樹脂やその他環境にやさしい材料の研究開発が進んでおり、セルロイドに関する知見は今後の新材料開発の先駆けとして大きな役割を担うものと期待されている。
セルロイド産業文化研究会はセルロイドハウス横濱館と協力し、セルロイドに関心のある方々や研究者と広くネットワークを組み、調査研究活動を続けていきたいと考えている。
関係各位の一層のご協力とご指導の程を切にお願いする次第である。
今後の調査研究活動については逐次ご紹介する。
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