セルロイドサロン
第106回
松尾 和彦
リサイクルとセルロイド


 「リサイクル」という言葉を聞くようになってから久しくなりました。一度生産された品物を廃棄することなく再利用するという意味ですが、実際には「再利用」は「リユース」と言うべきでしょう。

この「リユース」の代表がビールなどの瓶類です。お手元にビール瓶がありましたら確かめていただきたいのですが、瓶本体と貼られているシールとでメーカー名が違うことがあります。これが「リユース」の何よりの証拠です。ビールは以前にはメーカー毎に容量が違っていたのですが戦争中に統一されました。これにより各社間での使い回しが可能になりました。そして今でも瓶が「リユース」されているというわけです。

「リサイクル」「リユース」とともによく言われる言葉が「リデュース」で、これは最初からゴミを出さないということです。

 では「リサイクル」とは何かと言うと「ちり紙交換」で集められた新聞紙からトイレットペーパーを作るように、形を変えて再利用するということです。



「リサイクル」社会の優等生だったのが江戸時代で、壊れた鍋は鋳掛屋が修理して再使用させる、割れた瓶茶碗等は漆でつないで使う、糞尿は肥料となる、ぼろ布は詰めものとする、紙屑は浅草紙というトイレで使用する再生紙となる、草鞋は一度ほぐして再生させる、使いものにならないと藁床に入れる、さらに炊きつけにする、残った灰も肥料となる。

 このように江戸時代には「ゴミ」呼ばれるようなものが殆ど出ませんでした。



 セルロイドを製造する際に必要なものには硝酸、硫酸、セルロース類、アルコール、樟脳などがあるのは良く知られていることですが、これらを一度きりで使い捨てにするでしょうか。もしそんなことをしたらセルロイドは非常に高価なものになってしまいますし、廃液によってセルロイド工場の周囲は大規模で深刻な環境汚染に見舞われることになります。

 実際には硝酸、硫酸、アルコール及び洗浄に使う水などは多くが「再利用」つまり「リユース」されています。

 これに対してセルロース類は綿毛屑、紙屑、ぼろ布などを硝化させますので「リサイクル」に分類されます。

 セルロイドを製造する時のセルロースとしては主に綿毛屑が使われましたが、一部紙屑、ぼろ布なども使われました。これらを回収していた業者がいるわけですが、銀座に近い木挽町では模造紙、西洋紙、ハトロン紙、ボール紙等比較的品質の良い紙が多く、中小工場が多かった西巣鴨では布の断ち屑、紙の裁断屑が多いなど、それぞれの土地柄を表していました。



 判断が難しいのが、加工業者から集めてきたセルロイド屑から再製生地を作る出すことで、セルロイドからセルロイドを作り出すのですが「リユース」とは言い難いし「リサイクル」と言うわけでもありません。

 このセルロイド屑が第一次大戦中に一貫当り十八円にもなり、プレス機が三台あると一日に百円の金になりましたことは前にも書きました。これに製品の価格が一台当り百円ですから合計四百円もの金が一日で入るのです。当時の大卒者の平均初任給が五十円前後でしたから、月給の八倍もの金が一日で得られます。これでは金銭感覚が狂わない方が不思議です。

ところが戦後の不景気、関東大震災、金融恐慌、株価暴落等により僅か数年にして倒産夜逃げが起きたことも前に書きました。

 その関東大震災で大量に発生した瓦礫の山、つまり粗大ごみの処分に困った当局が埋め立て処分を行った場所が現在の山下公園であるのは良く知られていることです。どうも役人というのは同じことを考えるようで、江東区は面積の半分以上が江戸時代からの埋め立てで出来ています。



 今日、リサイクルは環境保護のお題目のように語られていますが、現在だけではなく過去も大きな問題だったわけです。今を生きる私達は未来を守るためにリサイクルに気を払うようにしていきたいものです。




著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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