セルロイドサロン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第113回 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
松尾 和彦 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
セルロイドは400年 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「セルロイドは400年」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。これは主にフィルム関係の方が語られる言葉です。セルロイドが発明されてからまだ140年しか経っていないのに、どうしてこのような言葉があるのでしょうか。 物にはすべて賞味期限、保存期限というものがあるます。食品で言えば美味しく食べることが出来るのが賞味期限、美味しくは無いが支障は無いのが保存期限です。 映像フィルムですと奇麗にはっきりと映すことが出来るのが賞味期限、ノイズが多くなってはいるが映ることは映るのが保存期限となるでしょう。 大正時代から昭和の初期を中心に玩具映画というものがありました。手回しの映写機によって一般家庭で映画を見ていたのですが、映写機(ハード)はブリキ製の玩具ですが、フィルム(ソフト)は劇場で公開された35mm映画の断片を切り売りしたり、玩具映画専用に作成されたものでした。 これらのフィルムは20秒から3分程度の短いものですが、当時全盛であったチャンバラ時代劇、アニメーション、ニュース映像、海外物なども含まれ歴史の証言者となっています。 このような玩具映画のオリジナル物は損傷が烈しいものが殆どです。賞味期限は過ぎたが、消費期限は過ぎていないと言えるでしょう。 その頃のフィルムはもちろんセルロイド製です。ところがセルロイドフィルムは可燃性が問題とされ複写が行われた後には廃棄されていました。日本の「文化財保護法」には映画フィルムに関する言及はありません。第二条に文化財として規定されるものは建造物、絵画、彫刻、工芸品、書籍、典籍ときて「古文書その他の有形の文化的所産」の中に含まれているものが映画フィルムです。 「映画保存法」のような法律が存在しないが為に映画フィルムの残存率は非常に低く、前回にも書きましたように1910年代=0.2%,1920年代=3.8%,1930年代=10.7%,1940年代=29.8%となっています。 映画フィルムの誕生から1950年代前半まで35mmフィルムに使用されたナイトレートフィルムは以下のような段階を経て劣化が進行することが知られています。 第一段階 画面が琥珀色に変色して、ぼけを生じる 第二段階 乳剤が密着し始める 第三段階 フィルムの巻きの中心部が軟らかくなって気泡を生じ悪臭を放つ 第四段階 フィルム全体が軟らかくとろけ表面は泡で覆われ強烈な悪臭を放つ 第五段階 フィルムが部分的あるいは全体に褐色の毒々しい粉状になる ではこのような状態になるためにはどれくらいの期間が経過しているのでしょうか。 それを示すのが次の表です。
このように低温状態にすると実に長い間保存が可能となります。 では逆に高温に置くとどうなるでしょう。それを示すのが次の表です。
高温状態になりますと年単位ではなく分単位で劣化が進んでしまうというわけです。 ここで注意していただきたいのが常温に近い20℃の時が362年となっているということです。フィルム関係の方が語られる「セルロイドは400年」という言葉は、これを基にしているもので決して根拠の無いものではなかったのです。 このように条件によっては長期保存が可能なセルロイドフィルムが失われてしまったことは残念でなりません。前回に述べました「紅葉狩り」「史劇楠公訣別」に続いて重要文化財、さらには国宝に指定されるセルロイドフィルムが現れることを願ってやみません。さらにもうこれ以上失いたくないものです。 |
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著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。 |
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