セルロイドサロン
第123回
平井 東幸
金子眼鏡(株)とセルロイドの眼鏡フレーム



 羽田空港の国際線旅客ターミナルビルには金子眼鏡店がある。2010年10月からふたたび国際線が就航し、諸外国とのアクセス利便性が復活している。ターミナルビルの4階には「江戸小路」があり、江戸情緒溢れるつくりの飲食店や物販店でにぎわっている。そのなかに出店した金子眼鏡鰍ヘ、知る人ぞ知る、セルロイド製の眼鏡フレームではわが国第一のメーカーだ。セルロイドのフレームは欧米では販売が禁止されている由であるが、おそらく同社はセルフレームに関しては世界一であろう。

1958年に創業した同社(福井県鯖江市)がユニークなのは、セルロイドにこだわり、職人による手造りにこだわっていること。眼鏡関係者には旧知のことだが、鯖江市はわが国の9割を占めるダントツのアイウエア産地、世界でも屈指である。もっとも中国の急追のため昔日の繁忙さはないが、、、、

その店頭ではDVDが上映されている。タイトルは「眼鏡職人群像」。副題「現代の名工と匠の技」が示すように、どこにでもある、単なる企業のPR映像ではない。雪の福井も出てくる39分のこのDVDは美しくも優れた伝統技術の記録映像であることに驚いた。

セルの眼鏡フレームの製造工程は、生地の裁断から始まって、基準穴開け、内形削り、外形削りと特注の糸鋸、やすり等を使っての手作業が進む。レンズ、鼻パッド取り付け、ガラ入れ(表面の傷等をとる)、やすり掛け、バフ研磨等々、数え方にもよるが100以上にもなるという。この一連のプロセスが丹念に撮影されている。しかも、製造工程の記録と並行して、画面に登場する4人の職人の方々のコメントも年季を重ねてきただけに大変興味深い。

曰く:「大量生産は何かが物足りない。1枚1枚の手造りには機械生産にはない独特の趣きがある」「セルロイドの艶や清潔感はアセテート樹脂でもでないもの。セルは加工に手間がかかるが、何年たっても形状変化しない良さがある」と聊か我田引水気味の面がないではないが、「完成した時の達成感は何にも代えがたい」「自分が造ったフレームを使用している人にたまたま会った時の感動は言い難い」「フレームに自分の名を入れることなった時は恥ずかしい気がしたが、半面、一人一人のお客に対する大きな責任を感じる」との発言には敬服する。手仕事の確かさ、長年携わったセルフレーム造りへの自負、そして60歳台になってもなお衰えないチャレンジ精神が画面からにじみ出てくる。

ところで、現在、プラスチックフレームの99%はアセテート樹脂であり、残りがセルロイド製。セルフレームの小売上代は普通のものは3万から4万円と決して高価ではないといえる。

同社には大阪にも眼鏡小売店あり、その一角に資料室がある。江戸以来の眼鏡の歴史を示す資料が約70点収蔵され展示されている。この資料室といい、上記のDVDといい、社会への貢献を大きく評価したい。伝統と技術を継承しながらモノ造りビジネスを継続することは、とりわけこのご時世では容易ではないが、それだけに同社の経営姿勢、具体的な取組みは敬服に値する。

従業員160名の同社が、海外製品流入による著しい低価格化や、後継者不足などの課題抱える業界のなかでアジア向け輸出を含めてますますの事業拡大を期待したい。セルロイド産業は、「過去の産業」などとはゆめゆめ言ってはならないと実感した。

なお、この小文を書くにあたっては、金子眼鏡(株)にお世話になった。ここに記して謝辞と致します。

(2011年6月28日)





著者の平井東幸氏は、東京産業考古学会副会長で、元嘉悦大学教授、千葉県在住。


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