セルロイドサロン
第139回
松尾 和彦
ビリケンさん

 とんがった頭につり上がった目、笑っているのか怒っているのか分からない不気味な表情。一見したところでは悪魔にも見えるが実際は福の神。前に投げ出した足の裏をくすぐってやると気持ちが良いと言って喜ぶ。この訳の分からないキャラクターがビリケンであることはよく知られています。

 関西では大阪の通天閣や田村駒などが有名で、豆を「お豆さん」、恵比寿を「えべっさん」といったように「さん」をつけて呼ぶ風習から「ビリケンさん」と敬称付で呼ばれているので馴染み深いものとなっています。商店や民家の玄関先に飾られていることも珍しくありません。最近では関東でも愛好者が増えてきています。

 そのため日本生まれのキャラクターだと思われている方も多いのですが、実際にはアメリカの女性芸術家フローレンス・ブリッツの夢の中に出てきた神秘的な人物を具現化したもので、この点ではキューピーに似たところがあります。

 このビリケンが日本にやってきたのは驚くほど早く、ブリッツが発表した翌年の1909年には渡来していたと考えられています。また田村駒が商標登録を行ったのはその二年後です。

 ビリケンに似ていると言われた人物には落語家の笑福亭鶴瓶、サッカー選手の石櫃洋祐などがいますが、何といっても一番有名なのが第十八代総理大臣を務めた寺内正毅で、政党からの入閣が無い非立憲(ひりっけん)内閣であったことと併せてビリケン宰相と呼ばれました。いささか軽蔑した言い方なのですが、寺内自身は気にいっていてビリケン像を三体も購入したほどです。

 オバケのQ太郎、忍者ハットリくん、魔太郎が来るなどで有名な藤子不二雄Aの作品の一つにビリ犬というのがあります。名前は同じなのですが中身は全く異なるという作品になっています。

 日本ではこれほどまでに愛されたキャラクターなのですが、本家本元のアメリカではいささか忘れられた存在となっています。それでもセントルイス大学のマスコットとなっていたり、1949年に公開された映画「哀愁」では重要な役回りを務めたりしています。

 このように愛されたキャラクターですので商品化されたものも多く、通天閣では人形、手ぬぐい、ストラップなど代表的なお土産となっています。

 ではセルロイド製のものも多くあるのではと思ってしまうところですが、意外と見かけません。これは同じタイプのキューピーに押されたためではないかと思われます。それでも探せば見つかります。また面白いものではキューピーと半々になったビリキューというものがありますが、セルロイド製のものが市場に出ることはまずないでしょう。何故なら現在の所有者が開運何でも鑑定団でお馴染みの北原照久さんだからです。この金型があれば北原さんの許可を取った上で製造も可能なのですが、誰か持っている方はおられないでしょうか。




著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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