セルロイドサロン
第15回
松尾 和彦
えっ、こんなものまでセルロイド
 これまでセルロイドでどのようなものが作られてきたのでしょうか。最初のきっかけとなったのがビリヤードボールであったことはよく知られています。ピンポン玉、眼鏡フレーム、ゴルフクラブのネックソケット、万年筆などの筆記用具、パチンコの化粧板などの「現役選手」の存在も有名です。そしてキューピー人形などの玩具は、かつての花形でした。
 それではこれまでセルロイドで作られたものにはどのようなものがあるのか用途を挙げてみることにしてみます。

 頭髪用品
   櫛類、ヘアーブラシ、ヘアーピン

 化粧用品
   石鹸箱、コンパクト、パフ入れ、クリーム入れ

 装飾品
   眼鏡枠、腕輪、詰襟カラー、ボタン、香港フラワー

 文房具
   万年筆、ペン軸、筆箱、計算尺、各種定規類、下敷き、算盤、栞、各種カード類

 履物
   靴かかと、靴べら、下駄の下張り

 日用品
   歯ブラシ、傘の柄、湯桶、洗面器、裁縫箱、ナイフの柄

 玩具
   各種人形類、風車、お面、ガラガラ、オルゴール、メリーゴーランド

 スポーツ用品
   ピンポン玉、スキーソール、ゴルフクラブのネックソケット

 楽器
   ギターの胴、ギターピック、ドラムの胴、三味線の撥、琴柱、琴爪

 車両用品
   自転車チェーンカバー、ハンドル、グリップ、風防、方向指示器

 医療用品
   入れ歯、眼帯、目薬容器、浣腸器、コルセット

 工業用品
   バッテリーケース、目盛り板、印刷用文字版、秤量皿

 その他
   名札、カメラ部品、印鑑、置物、根付、縁起物、パチンコ化粧板

 このように実に多岐に渡っていますが、他にも驚くような用途として使われていました。一九三八年(昭和十三年)五月六日付けの大阪朝日新聞の夕刊には「心配するな! 我にセルロイド足袋のコハゼ、蚊帳の吊り手も金属の代役相勤め候」と題して、以下のような記事が掲載されています。

「長期戦に備えて銅、鉄や合金の使用禁止制限で世はまさに代用品時代に入ったが”セルロイド日本”と世界に誇る大阪のセルロイド業者が蹴起して「大阪セルロイド研究普及会」(仮称)を結成、セルロイドの代用性を科学的に調査研究して戦時下の国策に応じようと意気込んでいる。
セルロイド業界は大規模な生地生産業者と、家内工業的な加工業者及び生地組合などがそれぞれ孤立、対抗していたが時局の波にもまれて最近大日本セルロイド鰍はじめ大阪セルロイド生地工業組合(六会社加盟)、各種セルロイド加工業四組合、再生生地工業組合、大阪セルロイド同業組合、生地卸商業組合など生産、加工、販売を結ぶ業者ががっちりと手を組み、三日から引き続き各代表者が大阪東成区大今里町の櫛会館で協議の結果、大同団結して研究普及会を作ることになったもので来る七日を期して調査、研究、普及、相談の各係りを整備し実験室と工場とを結びつけた有力な実行機関として活動を開始することになった。
業界では従来錫製だった歯磨きチューブに代わるセルロイド製チューブの製造に着手しており、また足袋のコハゼ、蚊帳の吊り手、襖や扉の取っ手などもすでに研究製造中で、将来さらに台所用品、建築材料など各方面へ次から次へと新工夫をこらし、さらに相談係は社会一般に呼びかけて考案の発案を募り、これを直に同会加盟の各工場で製造加工して大衆に普及させるべく努力するはずで、安いセルロイド製品が金属に代わって商品界に君臨する日も近かろうと張り切っている」

 この記事にありますもののうち蚊帳の吊り手は腕輪を代用すればいいのですが、他のものはセルロイドを代用品とすることは、かなり難しいものがあると思われます。特に歯磨きチューブは困難を極めたのではないかと想像されます。
 歯磨きチューブが今のようなラミネートになる前には錫やアルミが使われていましたが、戦争の激化に伴い一九四一年(昭和十六年)に使用が禁止となりました。この記事にあります製造に着手した会社は、歯磨き、歯ブラシ、洗剤などのメーカーとして知られているライオンではないかと思われますが確証はありません。この辺りの事情に詳しい方や現物をお持ちの方がいらっしゃいましたらセルロイドハウスの方までご連絡をお願いいたします。
 このようにセルロイドは実に色々な方面で使われていました。これまで挙げましたものの他にも使われていたという情報、資料等をお持ちの方、また現物をお持ちの方もご連絡をお願いします。
 今のようにプラスチックの種類が少なかった時代とはいえ、これほどの万能選手はもはや現れることは無いでしょう。それを思いますといかにセルロイドが魅力ある素材であったかを今更のように認識しなおします。



著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。

連絡先: セルロイドライブラリ・メモワール
館長  岩井 薫生
電話 03(3585)8131
FAX  03(3588)1830



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