「南葛魂」という言葉を聞いたことがありますか。文字通り葛飾南部の人の気質を表す言葉です。葛飾一帯の人々は団結心が強く、曲がったことが嫌いで、権力者に媚びへつらったり怖れたりしません。また新しもの好きで探求心に富んでいます。そのために少し損をすることがあってあまりお金と縁がない土地柄でもあります。
葛飾一帯は低湿地ですが住みやすいところであったがために遺跡が数多くみられます。「男はつらいよ」で有名な柴又は元はと言えば嶋又、つまりは河口付近で川が幾つにも分かれて嶋を作っている場所という意味の地名でした。そこから出土した木簡に面白い名前がありました。それは「アナホベノトラ」と「アナホベノサクラ」です。ただしこの「トラ」と「サクラ」は兄妹ではなくて夫婦でした。
葛飾と同じような気質を持っている場所、それは河内です。河内と言いますと荒っぽい言葉、軍鶏博打、夜這いなどあまり良い印象がありません。でもそれらは今東光が「悪名」のなかで語ったものを映画会社や吉本新喜劇が面白おかしく誇張したものであって、本当の河内の姿ではありません。
本当の河内は「ワケ王朝」とも呼ばれる「河内王朝」が存在していたように早くから開けた場所でした。新しもの好きなところ、団結心の強さ、反権力の姿勢など南葛魂と河内気質は似通っています。こちらも損をするところがあり葛飾同様金に恵まれないようです。そして低湿地で水害に見舞われることも多いが住みやすい土地であるということも似ています。
もっとも今では双方とも改良工事などにより水害から免れています。
この両者がセルロイド加工の中心となっていることはよく知られています。葛飾は玩具、河内はブラシなどの生活道具と住み分けていることも有名です。
セルロイドの他にもエボナイト万年筆、ばね、金属加工、食品機械、文房具なども両者が中心となっています。また河内の中心地東大阪で作られた人工衛星が打ち上げられたことは有名です。あなたの身の回りにもメイドイン葛飾、メイドイン河内があふれているのですが気が付くことは少ないです。でもこの両者で作られた品物が無くなったら現在のような生活は送れなくなることでしょう。
一時は双方ともにセルロイド産業が姿を消したのですが、最近になって葛飾で小物、河内で万年筆が復活してきています。
南葛魂と河内気質がある限り、セルロイド産業が完全に姿を消すことはないでしょう。そして日本の産業を目に見えない形で支え続けてくれることでしょう。
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