「産業考古学」という言葉をご存知でしょうか。本年(2016年)が学会創立40周年という比較的新しい学問ですので、聞かれたことが無い方もおられると思います。
日本では奈良や京都の神社仏閣のように千年以上の歴史があるものは大切に保存されています。伝統的な街並みなども保存されています。しかし少し前のものは再開発などの名目で失われています。例えば日本での家屋の平均的な寿命は27年です。イギリスの141年、アメリカ103年、フランス86年、ドイツ79年と比べるとあまりにも短いと思われるでしょう。
産業設備にも同じような傾向があり、技術革新が行われると以前の設備は見向きもされずに忘れ去られてしまいます。
このような風潮に危機感を持って生まれたのが産業考古学です。セルロイド産業も産業考古学と大いに関わりがあり、だからこそ私達の活動やこのサロンの存在意義があるわけです。
日本でのセルロイド産業をもう一度見直してみましょう。最初にもたらされたのは1877年に神戸二十二番館であったことはよく知られています。その後ももたらされましたが、量も少なく散発的であったので定着しませんでした。
西沢幾次郎、小蝶六三郎といった先駆者と呼ばれる人達の挑戦もあったのですが、資金不足が主因で工業的には成功しませんでした。そのため大資本が必要だということになって三菱と鈴木商店が兵庫県網干に「日本セルロイド人造絹糸」、三井が大阪に「堺セルロイド」を創設しました。そして認定化学遺産第九号として「セルロイド工業の発祥を示す建物及び資料」が指定されました。
この化学遺産も現在では第三十三号まで認定され合成樹脂関係も以下のように認められています。
号数 |
遺産名 |
関連項目 |
15 |
初期の塩化ビニル樹脂成形加工品 |
アロン化成 |
16 |
ビニロン工業の発祥を示す資料 |
桜田一郎、ユニチカ |
27 |
プラスチック産業の発展を支えたIsoma射出成型機及び金型 |
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30 |
オートクレーブ |
小林富次郎、ライオン |
33 |
ナイロン工業の発祥を示す資料 |
東レ |
堺、網干はセルロイド生地の生産拠点ですが、加工拠点の遺産として忘れてはいけないのが渋江公園です。他にもサロンの41回で取り上げた記念碑の場所などもセルロイドに関する産業遺産と言えるでしょう。
またセルロイド産業に欠かせない樟脳に関する場所や、樟脳財閥と言われました鈴木商店関連の地なども産業遺産です。そのような場を一度訪ねられて見られてはいかがでしょうか。
このように長いとも短いとも言える約140年の歴史を持つセルロイド産業を考古学的見地から見ると、また別の一面を知ることが出来ます。
私たちの活動は第一回のカンファレンスを開催してから16年、産業文化研究会発足から15年、横浜館会館より11年となりました。サロンも回を重ねまして今回で189回となります。カンファレンスや交流会も一度も欠かすことなく開催することが出来ました。
セルロイド産業は過去のものだけではなく現在のものでもあります。だからこそ私たちの存在意義もあり横浜館も発展してきたという次第です。
本年も10月に、これもセルロイド産業遺産と言える大阪セルロイド会館において交流会を開催することといたしますので多数ご出席をいただきたくございます。横浜にもご来館いただければ幸いです。また最近当サロンよりの引用が増えてきております。出展先の明記をいただければご自由に引用していただいて構いませんので、今後ともよろしくお願いいたします。
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