セルロイドサロン
第221回
松尾 和彦
セル画その3

 セル画その2で日本アニメ界の資金不足問題について述べました。そしてアメリカのディズニーが潤沢な資金を使っていたことも述べました。そのアメリカでは金を使いすぎたがための問題が起きていました。
 金を使いすぎたディズニー映画とは「ファンタジア」です。1940年の作品ですので悪化していた日米関係により日本での公開は1955年となりました。ところが上海、シンガポールなどで公開されていたのを見た人々は「こんな映画を作るような国と戦争をやって勝てるはずがない」と思ったそうです。また占領した場所から押収したフィルムが日本に運ばれて東大で上映され、東大生達も同じ思いになったと言います。
 日本では、このような評価を受けた作品ですがアメリカでの評価は微妙でした。というのはセリフが一部を除いて無く、音楽で進めていく作品だったのでディズニーファンはためらいを感じました。
 そして何よりも大きな問題は金をかけすぎたために、上映するのに必要な機器にかかる金が高すぎて、僅かな映画館でしか公開できなかったことです。もちろん大赤字です。
 日本は資金不足の問題、アメリカは金をかけすぎたがための問題。全くどっちもどっちといったところですね。

 日本のアニメ界における資金不足の問題は戦後も続きました。これは鉄腕アトムのような人気アニメでも例外ではありませんでした。というよりも鉄腕アトムこそが低価格の原因です。作者の手塚治虫が高く売れないでくれと頼んでいたのです。そのため現在に至るまでアニメの制作費不足、アニメーターの低賃金という問題が続いています。
 では、どのようにして克服したのでしょうか。それはコマ数を減らしたことと使いまわしです。前に1秒24コマと言いましたが、一般的なアニメでは15、テレビアニメでは8コマとしました。これはアニメが様式化しているからこそ可能なことで、本来は12コマ必要なところですが数を減らしても連続した動きに見えるのです。さらに同じような場面を多用して使いまわしをしました。アニメを見ていると人や動物の声だけがして姿が見えない場面がよくありますが、これもコマ数を減らすための工夫です。
 アニメ業界はこのようにして資金不足と戦っていたのです。

 セル画は1950年代までは名前の通りセルロイドが使われていましたが、次第にトリアセチルセルロースに移っていきました。使用済みのセルフィルムは前に書いたように洗った後に再使用していたのですが、傷がつく上にしわが出来るので3回が限度でした。その後、価格が下がったことから手間がかかるうえに再使用だと分かってしまうので行われなくなりました。
 その後は多くが廃棄焼却されたのですが、一部は公開初日のプレゼントとなったり、売却されたりして今ではプレミアムがついて高額で取引されています。さらに製作会社から盗み出されたものも多く、有名なアニメのフィルムが行方不明になったりもしています。
日本のアニメ界を支えてきたセル画ですが、1990年代までは基本的に用いられてきました。ところが1997年頃からデジタルアニメが登場します。製作者の減少、高齢化と相俟ってセル画は減少します。そしてデジタルアニメ化が進んだために2000年代になると、セル画技術者が一気に淘汰され残った人もアダルトアニメに携わることで生き残るという状態となります。
 このような中にあって最後までセル画を続けていたのがサザエさんです。しかしこれも「静電気の影響で塵が付着して見える」「厚みによる影で輪郭がぼやける」「色のばらつきが見える」などの問題が起き、2013年9月29日放送分を持ってセル画式アニメはテレビから姿を消しました。

 このようにセル画、中でもセルロイドを使用したものは今では見られなくなりましたが、アニメ映画をはじめとする映画業界にもたらした影響は何よりも大きなものがあり、今でもマニア垂涎の的となっているのは特筆すべきことです。愛好者がいる限りこれからも続いていくことでしょう。


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