皆さんは写真を撮られたりビデオを撮影されたりしますか。最近はスマートフォン、デジカメなどで撮影されることが多いと思います。確かに失敗が少なく、その場で確認ができますので便利の代物です。
ところが最近はフィルム式のカメラ、ビデオがデジタル式には出せない趣が感じさせられるとして復活しています。それも今まで一度も扱ったことが無いような若い人が中心です。
カメラの歴史は驚くほど古く既に10世紀頃にエジプトのイブン・アル・ハイサムが研究をしていたと言われています。また有名なレオナルド・ダヴィンチも研究していて、キリストの遺体を包んだと言われるトリノ聖骸布はレオナルド・ダヴィンチが作ったものだとも言われています。そして1825年にフランスのニエプスが世界で最初の写真撮影に成功します。その後、同じくフランスのダゲールが銀板写真を発表し、1884年にはアメリカのイーストマンが写真ベースを開発し、5年後にセルロイドフィルムの特許を取得します。
一方、動く映像の方は有名なエジソンが1893年にイーストマンの写真フィルムを見て考案し、2年後にはフランスのリュミエール兄弟がシネマトグラフを公開します。
それから以後、現在に至るまで基本的な仕組みは変わっていません。無声映画がトーキーになった時も、ベースが代わっても、スタンダードからシネマスコープになっても、音声がモノラルからステレオさらにデジタルになっても基本は変わっていません。
写真や動画フィルムのベースにセルロイドが使われた理由は、様々な優れた特性を有していたからです。
ベースの厚みは僅か0.13mmで、その上に0.02mmのエマルジョン(画像形成層)が載っています。それほど薄く延ばせるだけの延性が必要でエマルジョンが剥離するようなことがあってはいけません。また表面が凸凹してはいけないので平面性が必要です。薬品を使うので耐薬品性も要求されます。かなり強く引っ張られるので耐性も必要です。映画撮影時には何度も熱せられたところを通りますので熱耐性も必要で、変形してはいけません。光が通過するだけの透明度も重要です。
これだけ様々な要求を満たす素材は少ないのですが、その一つがセルロイドでした。ベースとして使われたのは必然だったと言えるでしょう。
その後、ベースは酢酸セルロース(アセテートフィルム)からPETへと転換して現在のようなデジタル時代となりました。
このフィルムについて回る問題が劣化です。セルロイドもアセテートも出来たその時から劣化が始まると言われています。セルロイドフィルムは劣化が始まりベースが分解しだすとNOxガスが発生して、容器の鉄や他の材質を酸化させます。さらに乳剤だけでなく素材自体を溶かしてフィルムが互いに付着してしまいます。特に缶などに入れて密封しているとガス濃度が高くなり、錆びるどころか溶けてしまいます。その為、鉄缶などによる密封保存ではなくて紙箱や桐箱のようにある程度の通気性がある方が好ましいです。
劣化の現象と対策は表1の通りです。
表1 セルロイドの劣化と対策
劣 化 |
現 象 |
状 況 |
対 策 |
初期 |
変色 |
褪色 |
出来れば焼却、劣化の評価 |
中期 |
臭気発生 |
酸っぱい臭気、刺激臭 |
焼却 |
表面の汗 |
べたつき |
劣化の評価 |
後期 |
表面のあかがり |
あかがり、クラック |
即焼却 |
ではどのように管理するかとの対策が表2です。
表2 セルロイドの管理
項 目 |
管 理 条 件 |
温 度 |
30℃以下で管理 |
湿 度 |
通風(換気)が良く、湿度が低い |
保 管 |
重ねたり、密封しない |
他の危険物と一緒にしない。特に酸、アルカリは避ける |
金属、プラスチック、木との接触を避ける(不織布に包むと効果的) |
発火しても延焼しないようにする |
照 明 |
直射日光を避ける |
照明器具の間近に置かない(紫外線を避ける) |
火 気 |
タバコなどの裸火は厳禁 |
コンセントなど電気火花が発生する場所は避ける |
暖房器具の側に置かない |
一方、アセテートフィルムは先ず酢酸臭を発します。この時に洗浄しておくと少しは劣化を防げます。しかしアセテートのほうがセルロイドよりも劣化が早くて、ワカメのような歪みと縮みが始まり塩のような結晶が付着します。
セルロイドと同じく密封した缶などでの保存は避けたほうが良く弱酸性であっても劣化が始まり、高温多湿ですと急速に進みます。このような酸っぱい匂いをさせながら組織破壊を起こすことをビネガーシンドロームと呼びます。
戦前の日本映画は多くが失われていますが、理由の一つがセル画その2で述べたようなフィルムの再利用です。1930年代にトーキーになると、それまでの無声映画の多くが失われました。またアセテートフィルムとなるとセルロイドフィルムの多くが廃棄されました。そして現在ではデジタル化によってフィルムが失われようとしています。一度、失われたものはもう二度と取り戻せません。同じようなものは作れますが、同じ物は作れません。
このような状況から国際フィルム・アーカイブ連盟(FIAF)が70周年記念マニフェストとして2008年から「映画フィルムを捨てないで」との運動を行っています。
日本でも劣化したフィルムを守ろうとしています。その為、再生作業を行っていますが、この時にガスにさらされることとなり健康被害の問題が起きます。基準としてはNO2が長時間3ppm、短時間5ppm、酢酸ガスが長時間10ppm、短時間15ppmとしています。さらにガスの吸着材なども開発してフィルムを守ろうとしています。
このように写真や映画などの映像媒体を守ることは現在に生きるものの仕事として大変に重要なこととなっています。
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