セルロイドサロン
第234回
松尾 和彦
落日の樹脂、旭日の樹脂

 先ずは下表をご覧になってください。

プラスチック原材料生産実績(単位トン)
  2000年 2005年 2010年 2015年 2018年
(9月迄)
フェノール 261,738 279,816 284,152 278,253 225,140
ユリア 210,406 123,905 67,976 63,897 44,696
メラミン 152,026 151,538 90,594 79,496 61,892
アルキド 109,829 89,785 74,379 58,086 45,773
エポキシ 243,338 210,781 187,565 116,135 102,415
ケイ素 290,144 廃止      
ウレタン 263,084 250,822 180,152 174,466 151,422

ポリエチレン 3,342,288 3,240,199 2,963,567 2,609,408 1,831,743
ポリスチレン 1,341,814 1,095,005 821,673 735,580 600,021
AS 135,536 133,917 108,925 80,563 52,673
ABS 546,411 505,263 454,109 376,336 281,065
ポリプロピレン 2,721,260 3,062,841 2,709,023 2,500,500 1,712,602
ポリブテン 35,660 廃止      
塩化ビニール 2,409,555 2,151,423 1,749,046 1,646,112 1,230,728
ポリカーボネート 354,108 430,626 369,270 294,449 243,397
PET 699,346 683,617 631,101 431,088 291,309
PBT 72,901 179,065 187,120 188,565 96,022


 年によって生産量の推移があるのが判ります。中には廃止されたものもあります。またサロン232回で取り上げたアニリン樹脂、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、カゼイン樹脂、そして残念ながらセルロイドも廃止状態です。これらは落日の樹脂と言っていいでしょう。

 先ずは落日の樹脂を見ていくことにしましょう。

・ケイ素樹脂

 名前の通りケイ素、特に高分子シリコーンを主成分とする樹脂です。低温から高温(-80~260℃)まで変化しない熱安定性があって、絶縁性、耐腐食性、耐湿性、耐候性、耐薬品性、耐摩耗性に富むという優れた樹脂です。この特性を活かして絶縁材料、モーター、耐熱塗料などに使われていました。また酸素をよく通すので人工腎臓やコンタクトレンズにも用いられていました。
 しかし2005年に廃止されて以後は生産されていません。

・ポリブテン

 上下水道の管によく使われていた樹脂です。分子量がポリエチレン(12~13万)、ポリプロピレン(20~30万)に対して120万と非常に大きいのが特徴で、柔軟性に優れ熱融着が出来、リサイクルが可能などの優れた特性を有していました。しかしポリエチレン、架橋ポリエチレン、塩化ビニール、FRPなどに取って代われらました。

・ユリア樹脂(尿素樹脂)

 ユリア樹脂は無色透明であることから着色が良い、軽くて割れない、安価であることなどからかつては学校や病院の給食用食器として広く使われていました。しかし熱いスープやお茶を入れると発がん物質であるホルムアルデヒドが溶け出してくると問題視されて、使用されなくなりました。
 今では麻雀の牌や将棋の駒、ボタンなどとして使われています。

・メラミン樹脂

 メラミン樹脂は光沢があり耐水性、耐候性、耐摩耗性に優れていることから家具や化粧板の成形、木工製品の接着、食器や日用品に利用されています。また電気絶縁性に優れていることからコネクター、スイッチなど電気部品にも広く使われています。
 ただしユリア樹脂と同じようにホルムアルデヒドを放出します。樹脂接着剤がシックハウス症候群の原因だとされていますが、中でも一番問題視されているのがメラミン樹脂です。

 そして残念ながら日本国内での生産が行われていないセルロイドも落日の樹脂ということになるでしょう。

 次に今が盛り、あるいはこれから需要が伸びていくであろう旭日の樹脂を見ていくことといたしましょう。
 先の表にありますようにポリプロピレンやポリエチレンといった熱可塑性樹脂は一つだけで熱硬化性樹脂総てよりも多くの生産量を上げています。
 それら汎用プラスチックは旭日の樹脂と言えるでしょう。
 では汎用プラスチック以外での旭日の樹脂と言えばということでPBT(ポリブチレンテレフタレート)から見ていきましょう。

 PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂は数々の優れた特性を持つ樹脂として知られています。
・機械的特性、耐熱性、電気的特性、耐油・耐溶剤性・難燃性が優れている
・結晶化特性が速く、流動性があり成型加工容易である
・吸水率が小さいので寸法安定性に優れている
・表面光沢に優れ着色性が良好である
 このような特性を持っていることから電気部品、自動車部品、事務用機器、キーボード、時計、カメラ、パイプなどに使われ今後の需要増加が期待されている樹脂です。

 最近よくPETボトルという言葉を聞きます。PETことポリエチレンテレフタレート樹脂は製法が見いだされたのが1941年、ポリエステルという名前で市場に出たのが1948年ですから、意外に古い樹脂です。
・約三分の一が空気由来の酸素ですので他の樹脂に比べると石油依存性が小さい
・そのため燃やした時の発熱量がポリプロピレンの約半分、紙と比べても同程度なので燃焼炉を傷めない樹脂と言われていました。しかし燃やすよりも回収して再利用するほうが良いというのは言うまでもありません
 PETボトルの素材表示をよく見ますと本体はPET、キャップはPPもしくはPE、ラベルは様々な素材となっています。PETボトルを回収するときに「ラベルを剥がして、キャップを外して」となっていると思います。それはこのように素材が違うからです。でももし一緒に出したとしても比重が違うので水で容易に分離することが出来ます。

 このように樹脂は時代により落日、旭日、様々に分けることが出来ます。今、旭日の状態にあったとしても10年後にはどのようになっているか分かりません。今後の推移を見守っていきたいものです。


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