セルロイドサロン |
第31回 |
松尾 和彦 |
セルロイドハウス見学記 |
去る二○○五年三月二十五日に世界でも唯一のセルロイドの博物館が横浜に開館しました。今回は、そのセルロイドハウスを紹介することといたしましょう。 三階建ての建物を一階から見学していきますとセルロイドが如何にして製造され、そして製品化されていったかの流れを理解することが出来ますので、一階から順番に見ていくことといたしましょう。 製造工程を説明しています部屋に人目を引く大きな壷があります。昔はこの壷の中に硝酸、硫酸、脱脂綿を入れて反応させてセルロイドの重要な原料の一つである硝化綿を製造していたわけです。その時の悪臭は大変なもので一日で逃げ帰った人もいるほどです。 この壷を提供してくださいました太平化学製品の創業者田島氏の紋服と合わせてご覧になって、先人が硝化綿を製造する苦労がどれほどのものであったかを偲んでください。 セルロイド製品にとって金型はまさに命です。それまでの塊やシートが金型に入れられることによって形あるものとなります。 銅が九割、錫が一割の合金は砲金と呼ばれ、その名前の通りかつては大砲に使われていました。鋳造が容易で熱の伝わりがよく、磨耗、腐食し難いために金型にはこの合金が使われます。小さな金型でも驚くほど重い金型は実に細かいところまで細工がなされていて、セルロイドを僅かでも無駄にしないという職人気質が伝わってきます。 この金型も多数展示されていますので、どれがどのような製品の金型かをご覧になってください。 現役のセルロイド製品と言えば何と言っても「愛ちゃん」こと、福原愛選手の活躍でおなじみの卓球でしょう。その打ち合う音からピンポンと呼ばれるスポーツに使われる球の材料としてセルロイド以上のものはありません。国際公認球は残らずセルロイドで作られています。 あの小さな球(かつての直径38ミリから現在では40ミリとなっています)を作るのに、どれだけの工程と時間とを必要とするかという問題を出すことといたします。答はセルロイドハウスでご覧になってください。そこまでいけないと言われる方はサロン12を御読みになってください。 この他にも一階にはパチンコ台、お面、軍隊用品などを展示しています。 二階に上がりますと大小色とりどりの人形が目を引きます。動物や起き上がり、キューピーなどの懐かしさと不思議な新鮮さとを感じさせる人形達に魅了されること必至です。なかでも骨董ファンにも取り上げられました美人の人形を見落とさないようにしてください。でも、この美人は自分がセルロイド製だということを忘れているようなことをしています。何をしているかは御自分の目で確かめてください。 日本での季節の挨拶状と言えば年賀状と暑中見舞いが一般的ですが、外国ではクリスマスを除くと一時に集中するようなカードはありません。しかしグリーティングカードを交わす習慣があります。季節が変わるごとに交わしたカードの中で最高級品は、象牙を薄く切ってシート状にしたものでした。 しかしこれでは幾らなんでも高価すぎました。そのためにセルロイドをシート状にする技術が確立されますと、セルロイドカードが全盛となりました。当時の切手がついたままのカードをご覧になって、書かれている簡単な文章を御読みください。 セルロイドがビリヤードボールに使われていた象牙の代替品として発明されたことは有名ですが、象牙で作られていたのはビリヤードボールだけではなかったのです。象牙や鼈甲などで作られた置物は高級な感じがして、部屋の雰囲気を引き立てていました。しかし手に入り難いものでもありました。 そのためにセルロイドが現れると象牙や鼈甲、珊瑚など模造した置物が多数作られました。七福神や人力車などの日本情緒溢れる置物は主に外国人が土産として買い求めたものですが、一つだけ「これには参った」と閉口したものがあります。それがどのようなものかはここに書くことは出来ません。外国人だけでなく日本人も閉口するもので御食事時には思い出さないようにしてください、とだけ言っておきましょう。 洗面器、セッケン箱、筆箱、歯ブラシ入れなど色取り取りで大小様々な容器の類を置いてあるところではじっと見つめるようにしてください。必ずや現在のプラスチックにはない優しさ、雅な心を感じ取ることが出来るはずです。もし手に入れられることがございましたら、しまいこまれるのではなく使われるようにしてください。そして中身を入れたまま蓋を持って上げてみてください。落ちませんね。では蓋を取ってください。簡単に取れるはずです。これが職人芸のなせる業です。 二階には、この他にもボタン、櫛、簪、フィルムなどを多数展示しています。 三階に上がりますとミーコ人形が出迎えてくれます。今や日本で唯一のセルロイド人形制作者となった平井英一さんは、セルロイドハウスファンクラブの代表を務められています。運営されているサイトは好評をきわめ、二○○五年六月二十六日には遂にアクセス数が十万を突破しました。また関東地方限定でしたがNHKでも放送されました。セルロイドハウスのページからも簡単に入れます。興味を持たれる内容があり、頻繁に更新されますので是非一度アクセスしてください。もし記念すべき数字を踏まれますと何かしらのプレゼントがあるかもしれません。 この他にも万年筆、靴べら、がらがらなどを多数展示していますが、百聞は一見にしかずです。是非一度お越しになって御自分の目でお確かめになってください。 セルロイドハウスの住所は横浜市高田東1-1-20(TEL:045-549-6260)です。 開館は毎週木曜日の午前十時から午後四時となっています。 |
著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。 |
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