セルロイドサロン
第36回
松尾 和彦
おまけとセルロイド

 「おまけ」という言葉を聞くと何となく得をしたような気分になる。お菓子についてくる小さな玩具やカードなどを夢中になって集めたという経験は誰もが持っていることであろう。

 この「おまけ」の歴史は江戸時代後期の富山の売薬に始まると言っていい。美しく刷り上げられた錦絵版画は、進物として好まれる一方で江戸文化を地方に伝えていく媒介手段であった。また売薬商人の信用度を高める役割も果たしていました。年に一度やってくるのを楽しみに待っていたものです。

 この富山の売薬の「おまけ」は昭和も戦後まで、続きカラフルで印象的な薬袋とともに「おまけ」の紙風船がどの家庭にも見られたものである。

 時代が明治となると煙草にカードを入れるという「おまけ」商法が行われるようになった。これはアメリカの煙草会社が野球選手などのカードを入れていたものに習ったものであった。


 しかし日本で「おまけ」という言葉を聞くと反射的に「グリコのおまけ」という言葉を思い出すのではないでしょうか。

 一九二一年(大正十年)に操業された江崎グリコはお菓子の会社としては完全に後発でした。しかも第一次大戦後の不況で五十社以上もあった会社が十社ほどに激減してしまうという時代でした。そのような中にあって先発の明治や森永といった大手と対抗する手段として考え出したものが「おまけ」でした。

 創業者の江崎利一の出身地佐賀は富山と並ぶ売薬の本場でした。そこで「おまけ」をつけることを考え出したのです。

 食べることと遊ぶことは子供の二大天職であると考えてつけた「おまけ」は紙のカードでした。最初はキャラメルの箱にカードを入れていたのですが、独立した箱にしてメダルなどを入れるようになりました。この箱も最初はお菓子の下にあったのですが、上へと変わり現在まで続いています。


 この「おまけ」にセルロイドが使われていた時代は二つに分かれます。前期は一九三五年(昭和十年)から一九四二年(昭和十七年)で、後期は一九五三年(昭和二十八年)から一九五七年(昭和三十二年)です。

 前期はセルロイドの製造が世界一を記録していた時代でした。加工が容易でカラフルなセルロイドは「おまけ」の材料として最適なものでした。しかし戦争が激化していった一九四二年(昭和十七年)になると、お菓子の生産そのものが止まってしまいましたので「おまけ」どころではなくなりました。

 戦争が終わり一九四七年(昭和二十二年)にお菓子の生産が再開され「おまけ」も製造されるようになっても、セルロイドは使われませんでした。それはセルロイド工場がアメリカなどの連合国によって接収されていたのです。生産量も激減していたために「おまけ」に廻すだけの余力がなかったのです。

 戦争による混乱もようやく収まってくると再びセルロイドが使われるようになりました。前期には動物が多かったのですが、この時期は各企業と提携した飛行機や洗濯機などが「おまけ」として現れました。

 グリコの「おまけ」の歴史から決して外して語ることが出来ないのがサロン7でも取り上げました宮本順三です。実に三千種類もの「おまけ」を考え出した巨人のサイトもご覧になってください。


 この「おまけ」文化は子供達に引き継がれてきましたが、最近では少し困った現象が起きています。それは「おまけ」が本体でお菓子が附録のような形でついているもので、段ボール箱の単位で買い漁るのです。そしてその場で「おまけ」を確かめて仲間同士で交換を行ったりしています。滅多に現れないレア物には時としてとんでもない値段がついて取引されています。

 「おまけ」をコレクションするのはいいのですが、これでは本末転倒というものです。


 グリコの「おまけ」でセルロイド製のものは大体が三百円から五百円で手に入ります。ところが時として一万円を越える金額で取引されているのは困ったことです。

 グリコの「おまけ」について知りたいと思われる方は大阪の江崎記念館、神戸のグリコピア、そして大阪のおまけやズンゾを訪ねてください。必ずや貴方が捜していた時代のものが見つかるはずです。そして骨董屋などで見つけられましたら買い求めてみてください。ただし適正な価格での話です。

著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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