セルロイドサロン |
第51回 |
松尾 和彦 |
セルロイドと根付 |
巾着や印籠、煙草入れなど紐の端についている小さな留め具。それが根付です。時代劇などではお馴染みのものですが、今でも根付を製作している作家の方も沢山います。それも日本人だけでなく外国人作家も多数活躍しています。また携帯電話のストラップは根付が基になっていますから、根付は過去のものではなくてまだまだ現役です 今回は、この根付とセルロイドの関わりあいについて見ていくことにしましょう。 根付が何時頃から使われだしたかは、はっきりとしません。しかし元禄年間に当たる一七○○年頃に描かれた風俗画に現れていることから、その時期には既に使用されていたことが分かります。 初めは単なる木片などで留めていたのでしょうが、江戸時代は世界史でも珍しいほど平穏無事な時代でした。そのような時代には人々は贅沢になり、お洒落になります。一日に二度だった食事が三度になり外食産業が始まり、豪華な衣装を着飾るようになります。 このような時代だからこそ根付は、ただの留め具から装飾工芸品へと発展していったのです。 一八五三年のペリー来航により開国すると日本独特の装身具である根付に西洋人が興味を持つようになります。そして活発に売買、蒐集、研究が行われたために大量に輸出されました。 ところが皮肉なことに大多数の日本人が根付に対して関心を払わなくなったのもこの頃です。 それがために「古根付」と呼ばれる、この時代までの根付は本家の日本よりもむしろ外国に優秀な品物が多数存在するという結果となっています。そして今でも西洋人のほうが根付に対して関心を持っている人が多く、コレクションなどにも優れたものが数多くみられます。 この時代より後に作られたものを「現代根付」と呼びます。字に書いてある通りに「現代」に作られたものではなく、江戸時代末期の品物でも「現代根付」なのです。 では根付にはどのような種類があるかを見ていくことにいたしましょう。 形彫り根付 木や牙歯類、陶器、金属、漆、琥珀、珊瑚類、ガラスなどで、立体的に人物や動植物などを象った根付。根付の中では最も一般的なものです。 饅頭根付 平べったい饅頭の形をした根付。ほとんどが象牙製か木製で、しばしば浮き彫りや漆、象嵌といった装飾が施されています。轆轤が使えるので大量生産向きです。 鏡蓋根付 蓋と皿を組み合わせたもの。蓋は大抵、金属製で円盤状になっていて浮き彫りなどの彫刻がなされている。皿の部分は象牙や木で出来ている。 柳左根付 饅頭型の根付に透かし彫りが施されたもの。透かし彫りは技術力を要するために分業体制を取っていたこともあります。 面根付 お面の形をした根付。 差根付または帯挟み 立体的な彫刻や浮き彫りの施された細長い根付で、腰に差して用いる。 帯ぐるままたは帯ぐる輪 ブレスレットのような環状の根付で輪の部分に帯を通す。 火はたき根付などの実用的な根付 留め具以外の例えば日時計などの機能を持った根付。火はたき根付は煙管のための灰皿のような役割をした。 これらの根付を作るための素材としてどのような特性が要求されるでしょうか。 細かい細工を施す必要がありますから彫りやすくないといけません。だからといって直ぐに壊れては困ります。身に付けるものですから、引っかかったりした時に着物が破けたり傷を負うようではだめです。 これらの条件を満たす素材は木、珊瑚、琥珀、骨、歯牙、甲羅など限られたものになってしまいます。 中でも象牙は適度な粘りがあり細工に適していて壊れ難く、年月とともに色合いが味のある飴色になっていき、時代のひびと言われるクラックが現れることから好んで用いられました。 しかし象牙は高価なものである上に象三頭に二人と言われるほど多くの犠牲者を出しました。そのために象牙の代替品が必要となりセルロイドが発明されたのはあまりにも有名です。 このようにセルロイドは元々が象牙の代用品ですから、ビリヤードの玉、ピアノの鍵盤などに用いられました。 またセルロイドは珊瑚や鼈甲などの代用品としても使われました。日本に最初に輸入されたセルロイドは赤色であったこともあって、模造珊瑚玉に加工されました。 このような経緯があるものですから、セルロイドが根付の材料として注目されるようになったのは必然的であったと言えます。 セルロイドは加工も着色も容易ですから様々なものに変化しました。また縞目模様を入れ、中に鉛を組み込んで見た目も重さも象牙そっくりに加工しているものもあります。 他にも根付だけでなく、様々な置物がセルロイドで作られるようになりました。一番好まれたものが宝船に乗った七福神で横浜のセルロイドハウスにも多数展示していますまた各地の風景などが御土産として売られました。こちらのほうも展示していますのでご覧になってください。 もしも骨董屋などで根付が売られているのをご覧になられましたら手にとって見てください。象牙と思われているものは殆んどが偽物です。本象牙はワシントン条約などの関係もあって数が少なくなっています。と言っても完全な偽物ではなくて象牙の粉や屑をレジンコンクリートと合わせた練り物です。そのために表面の縞目模様が如何にもつけましたといった感じの幅が広い不自然なものになっています。また何時まで経っても色が出ませんし、クラックもありません。 根付は日本独特の芸術なのに今もって外国人のほうが関心を持っています。しかし日本にもコレクションは多く国立博物館、故高円宮コレクションなどのように優れたものがあります。また食頑で有名な海洋堂が数多くの根付を販売しています。この分野はこれから有望ですので、皆様もコレクションされてはいかがでしょうか。 |
著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。 |
セルロイドサロンの記事およびセルロイドライブラリ・メモワールハウスのサイトのコンテンツ情報等に関する法律的権利はすべてセルロイドライブラリ・メモワールハウスに帰属します。 許可なく転載、無断使用等はお断りいたします。コンタクトは当館の知的所有権担当がお伺いします。(電話 03-3585-8131) |
連絡先: | セルロイドライブラリ・メモワール 館長 岩井 薫生 電話 03(3585)8131 FAX 03(3588)1830 |
copyright 2006, Celluloid Library Memoir House