セルロイドサロン
第57回
松尾 和彦
浣腸の意義とセルロイド

 先ず最初に断っておきますが、今回はテーマがテーマですのでお食事の前には読まれないようにして下さい。

 浣腸という医療行為は単に溜まっていた便を排出するだけではなく、腸内のガスの排出、大腸の粘膜から毒素が吸収されるのを防止する、肝機能を高めるなどの効能があります。またX線撮影の際にはバリウムを注入します。胃の撮影の際にバリウム液を飲むのと同じことを行うわけです。



 この医療行為の歴史は非常に古く、紀元前千五百年頃のエジプトで既に行われていたという記録が残されています。その後、古代ギリシャでも行われました。

 日本では既に江戸時代から医師が行っていましたが、一九二五年(大正十四年)に本所平川橋の医師田村廿三郎が、特に夜中に子供が発熱から痙攣を起こして死亡したり、重い後遺症を残したりするのを見て、浣腸を行って毒素を排出すれば効果があると考えて、積極的に行いました。

 その後も浣腸は簡単な割りに効果が高い医療行為として続けられました。



 この伝統的な医療行為は最近、驚くべき進化を遂げています。ハリウッド女優やスーパーモデルといった所謂セレブ(意味もなく使われている言葉です)と呼ばれている人々が、ダイエットや美肌維持のために浣腸を行っているのです。

 その方法は長く秘密とされ、行っている施設でも中でどのようなことを行っているかは口外しないようにとの誓約書を取っていましたが、実態は浣腸だったのです。ただし普通の方法ではありません。コーヒー浣腸です。腸の粘膜を傷めないように生理食塩水(0.9%)程度の塩分を含むコーヒーを約500~1000ミリリットル程度、高圧で注入するのです。

 このコーヒー浣腸は、最近では家庭医学雑誌やテレビの健康番組などでも取り上げられるようになりましたので、ご存知の方も多いかと思います。ここで肝心なことはインスタントコーヒーを用いないこと、体温程度にすることです。

 コーヒーを用いますと普通の方法よりも毒素の排出効果が高いだけでなく、肝機能を高めますのでダイエットや美肌維持に効果を示すのです。



 浣腸で最も効果的なのは昔ながらのグリセリンで田村も、これを使っていました。その他に簡便な方法として石鹸水を使う場合もありますが、ボディソープのような弱酸性のものは腸を荒らし、時として炎症を引き起こす場合もありますので絶対に用いないようにしてください。

 女性は便秘症を引き起こしやすく、最後の手段として浣腸を行わざるを得なくなることもありますが、なかなか買い難い薬です。そのような場合にはキャラメルを使う方法があります。まずキャラメルを軽く噛んで柔らかくするとともに形を整えます。次に冷蔵庫に二十分ほどおいてから挿入するのです。

 このようにしますとキャラメルのほうが糖分濃度が高いものですから、浸透圧の関係で腸を刺激することになります。その結果、十分程で効果が現れます。他に蜂蜜などでも同様の効果が期待できます。 



 田村の時代に容器として使われていたのが、当時日本が世界で最大の生産量を誇っていたセルロイドです。ちなみに一九二五年の生産量は二、八一七トンで、それまでの最高を記録しています。

 ところが当時のセルロイドはきめが粗かったものですから液洩れを起こしてしまいました。そのために皮膜を被せました。その形が似ていたものですからイチジク浣腸という言葉が生まれ、現在に至るまで売られているロングセラー商品となっています。

 この液漏れという欠点を無くしたのがポリエチレンで、浣腸の容器には今でも使われています。

 セルロイドを使っていた頃の浣腸容器は、横濱のセルロイドハウスに所蔵していますのでお越しになられました際にはご覧になってください。またオワイ車のセルロイド人形もありますので、あわせてどうぞ。



 この浣腸を行った後の排泄を行う便所は、人前で使うのが差し障れた言葉ですので厠、化粧室、更衣室、洗面所、ご不浄など様々な言葉で呼ばれました。英語でもトイレットだけでなく、ウォーター・クローゼット(W.C.)と呼ばれました。

 トイレにも便座、便座の蓋などにセルロイドが使われていました。そのためか中でタバコを吸ったために火事になったという話も伝わっています。

 こちらも現在ではポリエチレンを始めとして様々なプラスチック類が使われるようになっています。



 浣腸を使われるのも構いませんが、排泄は自然な形で行うのがベストですので、寒天などの食物繊維が豊富な食生活を送っていただきたいものです。



著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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