セルロイドサロン 58

セルロイドサロン

第58回

松尾和彦

セルロイドハウス探訪記

　二○○五年三月二十五日と言えば「愛・地球博」の開会式の日ですが、同じ日に横浜では「セルロイドハウス横濱館(以後横濱館)」が開館式を迎えました。

　東急東横線の綱島駅からバスに乗って吉田口で下車すぐ、歩いてでも行ける場所にある白色で三階建てのセルロイドハウスは、かつて大日本樹脂研究所として使われていたもので、尽力された岩井館長のルーツとも言える場所です。
　開館から一年八ヶ月を経た今、改めて訪れてみました。

　セルロイドと言うと現在でも現役のものはピンポン玉、パチンコの化粧板などに限られてしまいますが、かつてはその極めて優れた物性ゆえに生活のあるとあらゆる場所で広く使われていました。その数は一説では二万五千種類以上に上っていたと言われるほどです。

　この数字が真実であったかどうかは今では証明出来ませんが、セルロイドがかつて使われていた用途を挙げれば次のようになり、現在ではプラスチックの無い生活が考えられなくなっているように、セルロイドのない暮らしは考えられなかったということが伝わってきます。

　頭髪用品
　　櫛類、ヘアーブラシ、ヘアーピン、その他頭飾品

　化粧用品
　　石鹸箱、コンパクト、パフ入れ、クリーム入れ、鏡枠

　装身具
　　眼鏡枠、腕輪、詰襟カラー、ボタン

　履物
　　靴かかと、靴べら、下駄張り

　文房具
　　万年筆、ペン軸、筆箱、計算尺、定規類、下敷き、算盤

　日用品
　　歯ブラシ、傘の柄、湯桶、洗面器、裁縫箱、定規入れ、ナイフの柄

　玩具
　　人形、風車、お面、ガラガラ、オルゴール、メリーゴーランド

　運動具
　　卓球ボール、スキーソール、ゴルフクラブ部品

　楽器
　　ギターの胴、ギターピック、ドラム胴、三味線バチ

　車両部品
　　自転車チェーンカバー、ハンドル、風防、方向指示器

　医薬用品
　　眼帯、浣腸器、コルセット

　工業用品
　　バッテリーケース、目盛板、印刷用文字版、秤量皿

　その他
　　名札、カメラ部品、印鑑、置物、根付、パチンコ化粧板

　横濱館には、これらの品々のほとんどが収蔵されています。また他にもセルロイドを張った冷蔵庫、選局・音量調整などのつまみにセルロイドを使っているラジオなどは東芝、松下といった電機メーカーの人々も見たことがないと言われているほどです。

　またセルロイドの屏風のような珍品やグリーティングカードといった品物まで展示しています。このセルロイド製グリーティングカードのコレクションという点では恐らく日本で一番でしょう。

　さらに横濱館の凄いところは、これらの製品だけではなく主原料の一つである硝化綿を容れるための壷、金型、プレス機、セルロイドの顔料の量を計算するための計算機などといった機器類までも収蔵展示している点です。

　学術的な資料としての本も取り揃えていますので、学問的研究には欠かせない場所です。

　つまり横濱館は単なるセルロイドコレクターとしての観点からではなく、かつて世界一の隆盛を誇り日本を支えたセルロイドを産業の見地から、また文化として展示を行っているわけで、これが一般の博物館などと違うところです。岩井館長も属している産業考古学会の考え方に沿って、約百四十年位の歴史を持つセルロイドの研究的展示を行っています。

　この横濱館に感心したのが某人気テレビ番組で北原輝久氏で、さすがの世界的コレクターも「これは持っていない」「これも持っていない」と驚いていました。その時の様子を知りたい方は「フィギュア王102」に詳しく出ていますのでご覧になってください。

　横濱館は一年九ヶ月が経ちましたが、まだまだ成長過程にある若い博物館です。これからも発展を続けていくことでしょう。もし寄贈してもいいとおっし　ゃられる方がいらっしゃいましたら、ご協力のほどお願いします。

　またセルロイドについて知りたい、興味を持ったと言われる方のご来館をお待ちしています。

　セルロイドハウス横浜館の住所等は以下の通りです。

　住所: 横浜市港北区高田東1-1-20
　電話: 045-549-6260
　開館日: 毎週木曜日　10:00 ～ 16:00 (必ず事前に連絡を取ってください)
　入館料: 無料

著者の松尾和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。

セルロイドハウス展示物