セルロイドサロン |
第61回 |
松尾 和彦 |
ロイド三兄弟 |
ロイド三兄弟と言っても別にハロルド・ロイドの兄弟のことを語るわけではありません。セルロイド、アセチロイド、ラクトロイドのことです。今回は、この三つについて見ていくことといたしましょう。 ラクトロイド 牛乳から造られるプラスチックとして知られているラクトロイドは強靭である、弾性的に硬い、脱色が出来てある程度透明に出来る、きれいに着色出来る、木目調など天然素材風にも加工出来る、象牙調に精巧に加工出来る、切削性に優れているなど数多くの優れた特徴を持っているためにボタンや印鑑として利用されています。 このラクトロイドを造ってみましょう。必要な材料は牛乳と酢だけ。使う器具もガーゼ、ろ紙(コーヒーフィルターでもよい)、コップ、電子レンジ、フィルムケース、ペットボトルのキャップとどの家にでもあるものばかりです。 (一)タンパク質の分離
(二)成型器の作成 一、フィルムケースの上半分を切り取り深さ一センチの容器を作る 二、吸水性の紙をフィルムケースの底に入るように円形に切ったものを十枚作る。他にその倍以上のものも一枚作る。 (三)凝固物の成型 一、フィルムケースの底に円形紙を五枚敷いて凝固物を詰め込む。 二、円形紙五枚を凝固物の上に乗せ、さらに大きな紙を乗せ、その上からペットボトルのキャップを押し付けて圧力を掛ける 三、キャップを外し凝固物を取り出し紙も取る (四)樹脂の合成 一、皿などに凝固物を入れ蓋をして時々様子を見ながら電子レンジで加熱する。 二、水滴がつかなくり凝固物が硬くなれば出来上がり。 牛乳には約三パーセントのタンパク質が含まれていて、その中の八十パーセントがカゼインです。そのためこうして作られるプラスチックは「カゼイン樹脂」と呼ばれます。 「ラクトロイド」とはダイセル化学工業の登録商標なので、他社は使用することが出来ません。 工業的には白の顔料やパール箔などを入れて熟成したものを押出した後に冷却して硬化させます。一_に十日かかるという手間隙をかけた樹脂です。 アセチロイド この「アセチロイド」という名前も「ラクトロイド」と同じくダイセル化学工業の登録商標で、一般的には酢酸セルロース、セルロースアセテートと呼ばれます。 ドイツのシュッツェンベルガーによって発明されたのは一八六五年であったと言いますから、ハイアットのセルロイドの発明よりも三年も前のことになります。実用化されたのはずっと後の一九一七年(大正六年)だったとのことですが、はっきりとしたことは分かりません。 日本では大正の終わり頃からダイセル化学工業によって研究開発が続けられ、一九三五年(昭和十年)に工業化されました。そのために登録商標がつけられたわけです。 アセチロイド(酢酸セルロース、セルロースアセテート)は耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、耐燃焼性、耐光性に優れ、白色で着色が自由なため象牙、鼈甲、水牛、大理石など様々な天然素材様に加工出来る、丈夫で割れ難いなど様々の優れた特徴を持っているために実に用途が広くなっています。また最近では環境に優しいということが評価されています。 このプラスチックはコットンシリンター、溶解パルプを材料としてセルロースのエステル化及び生成したエステルの加水分解という二段階の反応を経て作られます。 {C6H7O2(OH)3}n + 3n(CH3CO)2O → {C6H7O2(OCOCH3)3}n + 3nCH3COOH {C6H7O2(OCOCH3)3}n + n(3-m)H2O → {C6H7O2(OCOCH3)m(OH)3-m}n + n(3-m)CH3COOH N:重合度 M:置換度 コ 溶 前 酢 熟 沈 精 乾 酢 ッ 解 → 処 → 化 → 成 → 澱 → 製 → 操 → 酸 ト パ 理 | | セ ン ル ↑ ↑ −−− ル シ プ − − − | ロ リ 酢 無 硫 希 ー ン 酸 水 酸 酢 ス 酢 酸 酸 ↑ ↓ 無水酢酸製造 ← 酢酸濃縮 このアセチロイド(酢酸セルロース、セルロースアセテート)は、セルロイドの最大の難点である燃えやすさを克服するために生まれたプラスチックであるために、用途などは非常にセルロイドと似通っています。その中で皆様方に一番馴染み深いものとしては写真フィルムがあります。 セルロイド ヤフーで「セルロイド」で検索しますと実に二十八万五千ものアクセスがあります。中には美容整形外科(これはセルライトと混同しています)があったり、「セルロイド」という名前のデザイン関係の会社があったりしますが、一番最初に出てきますのがセルロイドハウス横浜館で、二番目が平井玩具製作所のセルロイドドリームです。 その他にもセルロイド万年筆関係があったり、セルロイド玩具を収蔵している博物館関係があったりで実に多様な職種が関係しています。 他のプラスチックで見てみますとナイロンの一○五○万は別格ですが、ポリプロピレン一七五万、ポリ塩化ビニール一一六万、ポリカーボネート四十八万五千、ポリスチレン三十三万六千、ポリエチレンテレフタレートに至っては五万三百ですから、セルロイドが如何に健闘しているかを示す数字となっています。 既に日本での製造は終わり、現在の用途は卓球ボール、パチンコの化粧板、ナイフの柄などに限定されているのに、どうしてこれほどまでのアクセスがあるのでしょうか。 それは単にセルロイドが世界で最初のプラスチックであったことや、実に二万五千種もの製品に使われていたことだけでは説明しきれない「何か」があるからでしょう。それだからこそ、このサロンも六十回以上に渡って書き続けることが出来たのです。これからもその「何か」を求めて書き続けていきたいと思います。 |
著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。 |
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