セルロイドサロン
第68回
松尾 和彦
セルロイドに形を与えたものは
 セルロイドはシートの段階では下敷きのようなもので面白くありません。これに形を与えてやる必要があります。それには風車のように貼りあわせたり、ピンポン玉のように湯押しをしたりしますが、一番多様な形に仕上げるものは吹き込み成型です。

 この吹き込み成型に欠かせないものが金型です。今回はセルロイドに形を与える金型について見ていくことといたしましょう。

 金型に使われていますものは銅をベースに錫、亜鉛、鉛などを混入させた砲金と呼ばれる合金です。かつては名前の通り大砲の砲身として使われていましたので英語ではガンメタルと言います。

 配合比は、錫が十パーセント程度で残りが銅のもの、亜鉛が一−九パーセントで錫が十パーセントで残りが銅のもの、亜鉛・錫・鉛がそれぞれ五パーセントで残りが銅のものなどがあって、それぞれ用途によって使い分けています。

 よく真鍮と間違われるのですが、真鍮は亜鉛が三十から四十パーセントで残りが銅のものです。外見が真鍮は黄色いのに対して、砲金はピンクがかっています。余談ですが、金箔、金粉だと思っているものは本物の金ではなくて真鍮箔、真鍮粉です。

 砲金の特性は鋳造が容易である、磨耗、腐食に優れている、熱しやすいなどで、この特性を利用してバルブの継ぎ手として使われています。また天麩羅やしゃぶしゃぶの鍋などとしても使われていますので、もしかしたら皆さんのお宅にも砲金があるかもしれません。



 では、この砲金を使ってセルロイド製品(主に玩具)の金型がどのようにして作られるかを説明することといたしましょう。
一、 注文主から製品上がりまでのデザイン図が提出される
二、 取数を決めてデザイン図から型紙を取り、図面を引き、見積もりを提出する
三、 粘土(修正がやりやすいため)を使用して原型の製作に入る
四、 原型が上がり、メーカーのチェックが入る
五、 原型の石膏メス型取りに入る
六、 上下半面ずつ取数の粘土を抜く(複製する)
七、 図面通りに粘土を配列する
八、 金型用石膏メス型取り(上下)に入る
九、 砲金鋳物鋳造へ手配する
十、 鋳肌の砲金型上がる
十一、 鋳物金型の仕上げに入る
十二、 テスト成型により確認する
(註:復刻版のように現物の製品がある場合には二から始まり五に飛んで以下は同じ工程です)


 この金型を作るに当たっての最大の腕の見せ所は、セルロイドフィルムを如何に無駄なく型取りするかです。配列方法がコストダウンにつながっているわけです。


 では、こうして出来上がった金型を使って、どのように玩具などのセルロイド製品を製作するかを説明することといたしましょう。
一、 セルロイドシートに酢酸エチルを塗って艶出しを行う
二、 セルロイドシートを所定の寸法に切り取る
三、 変性アルコールの希薄溶液に一晩浸して軟らかくする
四、 金型を加熱する(この時に外れやすくするために石鹸水を塗ります。
職人さんは泡立ちの様子で適温を知ることが出来ます)
五、 二つに折ったセルロイドシートを合わせ型に挟んで軽く締め付けながら空気または蒸気を吹き込んで型通りに膨らませる
六、 水をかけて冷却して型から取り外す
七、 一つ一つに切り取ってバリ取りを行う
八、 ラッカー絵具で着色する
九、 ゴムひもを通して組み立てて完成

 この作業は夏場などでは五十度以上にもなるという大変にきつい仕事です。また冷却用の水が風呂になるほどです。あのような可愛らしいお人形が、このような過程を経て出来上がるわけです。



 ところでセルロイドハウスとも相互にリンクしています平井英一さんのミーコというセルロイド人形の作り方が現在(二○○七年五月)発売中のBethというコミック雑誌に掲載されています。平井さんも登場しています(少し禿げ過ぎていますが)ので、興味がありましたらお読みになってください。



 このようにセルロイドに形を与えるためには金型を製造する職人さん、人形などを作る職人さんの技術があってのことですので、手に取られる時には、そのような方々の苦労があったということを思い起こすようにしてください。

著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。

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