セルロイドサロン
第69回
松尾 和彦
セルロイドと卓球
 打ち合うときの独特の音から「ピンポン」とも呼ばれる卓球は、温泉地などに置いているために誰にでも出来る簡単なスポーツだと思われがちですが、実際には大変な体力を必要とするハードなスポーツです。

 サロンの12でも少し取り上げましたテーマですが、今回は卓球の歴史を振り返るとともに、どうしてセルロイドが使われているかを見ていくことといたしましょう。



 卓球に使われる台ですが、その大きさは2.74メートルX1.525メートルで高さは76センチメートルです。間の15.25センチメートルの高さのネットを挟んで直径40mm、重さ2.7グラムの白色もしくはオレンジ色のセルロイド製の球を打ち合って11点先取したほうが、そのゲームを取り三もしくは四ゲームを取ったほうが勝者となるというのがルールです。

 卓球が、このような形になるまでには様々なルール改正があり、球の大きさも2000年以前は38mmでした。また2001年以前には21点先取の二もしくは三ゲーム取得制でした。そして最近では44mmのラージボールもあります。この場合にはネットが2センチ高くなります。

 これは打ち合いを長続きさせて見せ所を作るという意図に基づいたルール改正です。また選手の健康管理の点から2008年9月(小中学生は4月)から、有機溶剤を使用したラケットが使用禁止になる予定です。



 卓球は「ピンポン」と呼ばれるようになる前は「テーブルテニス」と呼ばれていました。国際卓球連盟では今でもピンポンではなく、テーブルテニスを使用しています。起源は十九世紀のイギリス説が有力ですが、フランスであるとするものもあります。

 名前の通り、テニスが出来ない雨の日に選手が退屈しのぎにテーブルで打ち合っていたのが始まりですが、最初はバドミントンのラケットに革や紙やすりなどを貼ったもので、コルク球を打ち合っていました。しかしこれですと強く打っても弾まないので守りに徹することが出来て、一点を取るのに二時間以上も要したという記録が残っています。これだと一点取っただけで試合が終わってしまいます。

 ラケットは合板、もしくは単一の板にラバーを貼った物が主流ですが、カーボンファイバー、グラスファイバーなどが使われる場合もあります。ラバーも昔はゴム一枚を貼るだけだったのですが、戦後にそれまで軍事用に使われていた独立気泡スポンジを貼るようになってから、スピンがかかりやすくなり戦法が多様になりました。



 卓球が盛んな国には、かつてのチャンピオンだったスウェーデン、プロリーグがあるドイツ、オーストリア、アテネオリンピックで柳承敏選手が金メダルを取った韓国などがありますが、やはりアテネで全体の半分にあたる六個のメダルを取った中国が一番です。

 中国の強さを支えているのが層の厚さで、毎年のピンポン球の生産量が八百トンといいますからその凄さが分かります。ちなみに日本の生産量は二十トンです。

 中国の業者は材料のセルロイドを自家生産しているところが多いのです。ただしそれがゆえに製品にばらつきを生ずることとなり、国際試合などで使われる公認球とはなりえません。やはり公認球には日本卓球、ヤマト卓球などの日本産品となります。

 ところであまり知られていないことですが、日本ではつい最近まで軟式卓球が存在しました。日本人の特性の一つが必ず改良を加えるということで、軟式野球、最近ではソフトテニスと呼ばれる軟式テニス、サッカーのゴールデンゴール方式などは日本人の発案によるものです。

 軟式卓球もその一つで日本に卓球が入って間もない頃の1921年(大正十年)頃に考え出されました。ルールの違いはネットが2センチ高いということと、球の大きさが36.9〜38.9mm、重量が2〜2.13グラムだということです。

 この軟式卓球がラージボールの普及によって廃止されたのは2001年(平成十二年)ですから、つい最近のことです。

 ではピンポン球がどのようにして作られるかを説明することといたしましょう。これは湯桶、起き上がりなども同じようにして作られるもので、シートを半球状などの形状に加工する湯締め法と呼ばれる手法です。

 なまし液(アルコール水溶液)中にシートを1~2昼夜浸漬し、膨潤軟化させる。このシートを切断し、雌型の上にシートを載せて、リング及びリング押さえでクランプする。次にこれを熱湯中に浸漬し、シートが十分に軟化した時、手で雄型を徐々に下げ賦形する。

 賦形後、直ちに冷却水槽中に入れ冷却た製品を型から取り出してロクロまたは打ち抜きにより耳を取り除く。このようにして得られた賦形品を二つ合わせて接着して球に組み立て、溶剤で接着する。


湯締め加工フロー 条件
セルロイドを小裁ちする
小裁ち材料をなます なまし : 10%メタノール 三日間
雌型の上にシートを置き
金型で賦形する 熱湯中に浸漬 90〜95℃
ポンズ締める : 速度注意
賦形後冷却槽に入れ冷却する 冷水を金型にかける
底の反り : 冷却不足
耳を取り除く ロクロまたは打ち抜き
フランジ巻き 130 〜 160V


 セルロイドが卓球の球として使われる理由は一にも二にも跳ね過ぎず、跳ねなさ過ぎずの反発係数です。ベテランに言わせるとラケットで打った時も台で跳ねた時も、一度くっついた後に飛んでいくそうです。

 反発係数を僅かだけ落とした材料ですと、選手は手が痛くなってしまい試合になりません。また逆に上げた材料ですと、台の向こうに飛んでいってしまいこれまた試合になりません。そのためこれだけ数多くの合成樹脂が出回っているのに、世界で最初の合成樹脂が使われているのです。



 卓球の球は試合用の公認球で三個六百円ほど、練習用ですと四百円ほどです。これだけの価格で誰もが楽しめるスポーツは他に見当たりません。本格的な試合は無理ですが、打ち合いをしてみたらいかがでしょうか。
著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。

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