セルロイドサロン
第79回
松尾 和彦
セルロイドと縁起物


 月日の経つのは早いもので、ついこの前に二十一世紀を迎えたかと思っていたらもう二○○八年。この分では二十二世紀が来るのもあっという間でしょう、とはならないと思いますが、本当に時間というものは待ってくれなくても二十一世紀になってから八回目の元日を迎えました。

 このお正月というものは年の初めだけあって様々な願いをかけます。また縁起担ぎのために何時もと違うことを行います。また縁起物と呼ばれる何時もは見ないものが活躍する時期でもあります。

 ではお正月だと思えるようになる縁起物を挙げてみましょう。「注連縄」、「門松」、「お雑煮」、「鏡餅」、「おせち料理」、「福袋」、「お神酒」、「若水」、「七福神」、「宝船」、「鶴亀」、「一富士二鷹三茄子」、「串柿」、「獅子舞」、「木遣り」、「羽子板」など、お正月ならではの縁起物は数多く見られます。

 これはお正月は年始であることから、今年こそは或いは今年も幸せになれますようにとの思いをこめるからだと考えられます。



 このお正月の縁起物について見ていくことにしましょう。先ずは代表選手とも言える注連縄からです。



 一般の家庭ではお正月にしか注連縄を飾りませんが、神社では一年中見かけます。これは神社は結界、つまり神様がいる特別な世界であるということを示すためです。

 一般家庭ではお正月にだけ飾るのは、その年の家内安全と五穀豊穣をもたらしてくれる年神様を迎えるためです。ところが地方によっては一年中飾っている場所もあります。さらにこの注連飾りほど地方によって形や飾るもの、飾る期間、飾るようになった時代、取り外してからの始末の仕方などが違うものは珍しく、注連飾りは代表的なものだけで二千種類以上あります。何しろ山一つ川一つ越えただけで形が違うのも珍しいことではないので、お正月に旅をされて自分のところとは違うなあと思った経験をされた方も多いと思います。



 もう一つの代表選手である門松ですが、これは十二月十日以後の子の日に採ってきた松の枝を玄関の両側に飾ったのが始まりだと言われています。始まりは平安時代頃からですが、一般的になったのは室町期頃からです。

 この門松の竹の切り方が斜めに切った「そぎ」と平らな「寸胴」とがあります。これは武士が昔ながらの「寸胴」、商売人が見栄えのする「そぎ」だったことの名残ですが、今では「寸胴」はほとんど見かけません。と言うよりも門松そのものをデパートの玄関ぐらいしか見かけなくなりました。



 お正月にはお雑煮を食べますが、このお雑煮は「隣雑煮」という言葉があるように注連縄以上に千差万別です。形が丸いか四角か、澄まし汁か味噌汁か、普通の餅か餡餅か、具として入れるものが何を入れるかなどを細かく見ていくと一体何種類あるか分からないほどです。



 鏡餅が丸いのは昔の鏡が丸かったからで、鏡には神様が宿ると考えられていました。また家庭円満の証として鏡餅を飾りました。三方の上に載せるのは、尊い相手つまりこの場合は神様に物を差し上げる時には台の上に載せるのが礼儀であったからです。

 橙は代々続くように、裏白は繁栄するようになど飾るものにはそれぞれに意味があります。



 おせち料理ですが、これは本来は大晦日に食べるものでした。今では北海道の一部を除いてはお正月に食べています。

 この種類が、また千差万別で地域により職業により違います。



 これらお正月の縁起物を用意する時期ですが、二十八日が喜ばれ二十九日は「九」が「苦」に通じるとして嫌われているようですが、地方によっては「二十九」を「ふく(福)」と読んで、この日を選ぶなど、これまた千差万別です。



 このようなお正月の縁起物にもセルロイドは使われてきました。注連縄の飾り物は今ではプラスチック製となりましたが、かつてはセルロイド製でした。今では燃やす時には飾り物を外すようにと言われていますが、セルロイドでしたら燃やしてもおかしな有害物質は発生しませんし、着火剤の代わりになるのでつけておいたほうが都合が良いくらいです。



 お正月には宝船に乗った七福神を良く見かけますが、かつてはセルロイド製が町に溢れていました。盛んに輸出もされていましたが、今ではあまり見かけなくなったのが残念です。

 この七福神も総てが揃っているもの、恵比寿大黒だけのもの、船に乗っているもの、升に乗っているもの、人形だけのものなど色々とあります。
 セルロイドハウス横浜館には七福神が色々と揃っていますので来館のおりには御覧になってください。



 お正月を離れて縁起物を見ることといたしましょう。「達磨」、「熊手」、「朝顔」、「招き猫」、「キューピー」、「ビリケン」、「大黒舞」、「菱餅」、「柏餅」、「粽」、「千歳飴」、「鯛」、「金魚」、「さるぼぼ」、「白蛇」、「鯉」など、こちらも多くの種類が見られます。



 そしてこちらにもセルロイド製のものが数多く見られます。キューピーは、もはや説明の必要が無いほどですし、達磨、招き猫、鯛、金魚、白蛇、鯉などは何れもセルロイドで作られていました。



 このように縁起物にもセルロイドが多く使われていましたので横浜館では数多く取り揃えることが出来ました。御覧になられる時にはセルロイド全盛時代をご存知の方は、その時代を思い出すように、ご存知で無い方はその時代を想像するようにしてみてください。



著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。


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