塩化ビニル樹脂成型加工品化学遺産に認定


 この度、アロン化成に保管されています塩化ビニル樹脂成型加工品が日本化学会より化学遺産第十五号として認定されました。昨年にセルロイド工業の発祥を示す建物及び資料が第九号として認定されたのは、まだ記憶に新しいことかと思います。



 第三回の化学遺産として認定されましたのは他にウルシオール研究関連資料、フリッツハーバーの研究室に留学していました田丸節郎資料、鈴木梅太郎のビタミンB1発見関連資料、合成染料工業発祥に関するベンゼン精製装置、ビニロン工業発祥を示す資料、セメント産業の発祥を示す資料の計七点です。



 これらの認定を記念して去る三月二十五日に慶応大学日吉キャンパスに於いて市民公開講座が開かれました。開会の挨拶をされたのが化学遺産委員会委員長でセルロイドのシンポジュウムにも出席されています植村栄先生です。



 塩化ビニルはよく知られていますようにセルロイドに取って代わる存在となりました合成樹脂です。
 戦争中の話ですがアメリカの飛行機はなかなか撃墜されないのに対して、日本軍機はワンショットライターと綽名されたようにすぐに火だるまとなりました。それは何故かと言いますとアメリカ機はガソリンタンクの回りを塩化ビニルで覆っていたのです。そのため被弾しても溶けて穴をふさいでいました。また自己消火性がありますので直ぐに火が消えました。戦前に塩化ビニルを量産していたか否かの違いが、このような形で現れたのです。



 塩化ビニルとセルロイドの関係で直ぐに思い出されるのが1954年(昭和二十九年)12月27日付朝刊に掲載された「セルロイド玩具は総て不燃性のものと取り換えました。安心してお求めください」の広告でしょう。
 これはトーマス・レイン下院議員が「日本製の燃えやすいセルロイド玩具の輸入を禁止すべきである」と米国関税当局と商務省に要請を行ったのを受けたものでした。同議員の要請に基づく「可燃性物資法」は廃案になりましたが、セルロイド玩具は瞬く間に店頭から姿を消していきました。



 今回認定されました塩化ビニル樹脂は被膜電線の営業用見本で、電線被膜は1949年(昭和二十四年)にアメリカの押し出し機を用いて古河電気工業が国産化を実現しました。またその二年後には東亜合成化学工業がイギリスのウィンザー工業の押し出し機を改良して管の試作に成功し、水道管などに広く使われました。アロン化成で保存されているものは当時の製品見本です。



 セルロイドとは良くも悪くも関わりが深い塩化ビニル樹脂がセルロイドに続いて化学遺産として認定されたことは化学産業界にとって喜ばしいニュースと言えるでしょう。

松尾 和彦


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