特別寄稿
セルロイド産業文化研究会
−設立の趣旨と活動の狙い−
甲斐 學
研究会の発足まで 温故知新
 セルロイド産業文化研究会は、DJK INTERNATIONALの代表取締役岩井薫生さんが先代からのプラスチックスの博物館を造りたいという深く強い思い入れによって発案され、その趣旨に対しての関係者の心暖まる御賛同のもとに2000年の春発足いたしました。

 人類史の中でも、動乱に明け暮れた世紀とも位置づけてもよいこの20世紀は、材料という側面からみますと、プラスチックスが金属に取って代わった世紀でもあります。

 熱可塑性プラスチックスとして素晴らしいセルロイドは、熱硬化性のベークライトを従えて、フロンティアランナーとしてプラスチックスの世界を引っ張ってきました。
 セルロイドはこの100年間、合成プラスチックスの時代を花開かせる先駆けとして
1) 素材を構成する材料やその性質や役割の研究
2) 素材を工業化し製造するための装置・機器やプロセスの研究と開発
3) 商品の創造と開拓
4) 商品化するための加工技術の発明と開発
5) 品質を保証するための仕組みと体制の確立
6) マーケットチャネルと流通機構の確立
7) それを支える学会、協会や工業会の設立や支援などに取組み成果を挙げてきました。
 しかし、100年近い時を経てセルロイドで全世界を席巻した日本においてさえその生産については1996年に終止符を打ちました。

 あまり時間をおくと資料などが散逸してしまうのではないかという心配と、80歳をこえるOB達がお元気な間にということもこの時期に研究会を立ち上げた理由のひとつです。

 ところで、セルロイドの原料である硝化綿の原料の硝酸と硫酸の混酸が無水酢酸と酢酸の混合物に置き換えられた酢酸綿(セルロースアセテート)は今なお繊維素系の合成高分子として21世紀の最先端の用途も含めて用途を拡大しながらダイセル化学工業だけでも年間15万トンを超える市場を世界に誇っている。これらの製品は、循環資源の活用という視点からも一つのモデルケースを構築してきたと考えています。
研究会の視点と観点
 私達の先輩達が生涯の大切な時期に精力を注ぎ込んだ事業と商品をどのようなかたちで伝えていけばよいのかを考えて活動し目に見える形で次の世代に伝える為の活動を行ないたいと考えております。
初めての人工的な樹脂としてセルロイドが
1) なぜ開発されたのか
2) なぜ世界的に大きな産業にまで成長し、日本がそのフロントランナーにまでなったのか
3) なぜこの50年ほどの間に他の合成高分子材料に置き代わったのか
4) 他の合成高分子材料の開発にこれがどのようなインパクトを与えたのか
5) そしてなぜいまだにセルロイドでなければならない用途が残っているのか
6) いまだにセルロイドを懐かしみ愛する人たちが大勢おられ商品を大切に使ってくださっているのは何故なのか
という様なことを切り口として“セルロイドとその周辺”の産業と商品がそれに関わった人や社会にどのような影響を与えどのような文化を形成したのかということを以下に申し述べます三つの切口から取り組んでいきたいと考えております。
取組みの切口
 その三つの切口からの取り組みとは
取組み【T】:セルロイドライブラリ・メモワ−ルハウスのソフト面
1) セルロイドとその周辺についての資・試料や機材を生きたままの姿とかたちで系統的に収集し保存し解析し産業文化の視点から分類.整理して閲覧に供し後輩の勉学に役立たせるここで言う資・試料とは
@文献、図書等の文字情報資料、
A映像.音声・音響とうの情報資料
B製品
C金型など製造・加工に関わる装置・機器など
2) 研究会の活動を通じての研鐸することによってこれらの資、試料を解析し正しく評価するだけの力を向上させる。
3) セルロイドに関する歴史的スポットや現存する施設の調査の実施
取組み【U】:研究・解析・考証面
“産業(・)文化”と、いうジャンルを社会的、学問的にどう位置ずけるのかということをセルロイドという事業や商品に必要な研究や開発がそれに関わった人や社会にどのような影響を与えたかを科学、技術、工学、商品学、流通、安全や品質保証の仕組み、情報の伝達や記録・保存、研究&開発の手法、プロジェクトマネジメントさらには仕事としてセルロイドにいのちを賭けた人々、セルロイドに魅せられた人々、NationalPlastics CenterのMuseum等との交流をはじめ内外の学会や協会との交流と連携などを考察することによってそこで形成された文化が社会にどのような影響をおよぼしたのかということを考えてみたい。

 さらに新しい素材を、新しい事業として興すための取り組み方と盛りを過ぎた事業の全盛時代にその技術と市場の系譜を生かして次の事業に活用する対応の仕方なども考えてみたいと思います。

 たとえばセルロイド検査協会は通産省の高分子素材研究センターとなり、さらに化学技術推進機構JCIIの母体として換骨奪胎されてまさしく21世紀のために機能しております。

 大阪セルロイド会館は2000年度に大阪市指定の文化財として登録され現在も機能しております。
取組み【V】:事業(企画)面
 そして上述の視点【T】、視点【U】に関わる取組みの作業に役立つような場を提供していきたい。
@ セルロイドライブラリ.メモワ−ルハウスの支援【整備とその機能の充実】
A 集会
 セルロイドカンファレンス【節目の記念集会】
セルロイド文化の集い【セルロイドの素材としての美しさと感触そしてその融通無碍の優れた加工性から生まれた多様な製品に思いを馳せる同好の士の肩の凝らない感性の交流と情報交換の場】
セルロイド産業文化シンポジュウム【産業文化の研究発表の場】私どもは、これまでにセルロイドカンファレンス2000を東京で、セルロイドカンファレンス2001を大阪で、2002年からは毎年セルロイド文化の集いを開催してきました。
来年はセルロイドが世に出て105年になりますので秋にはセルロイドカンファレンスを大阪科学技術センターで開催することにしております。
B 出版
 取組みUの成果を報告書・レポート、資料・刊行物という形で発表する。
  「我が国のセルロイド産業の盛衰−栄光とメモワール−」あるいは「セルロイド−それにかけた夢と情熱。」の刊行(出版編集委員会が担当)
  「セルロイド紳士録」など
研究会の感性とその活動にあたっての基本的な姿勢
 このセルロイド産業文化研究会は、メンバーの熱意だけに支えられたボランティア活動がその活動のエネルギーの源泉であります。
 私達セルロイド産業文化研究会のメンバーの願いは、セルロイドを世間に正しく理解していただくという脇役に徹して、今なおセルロイドとその周辺のお仕事にかかわっておられる現役のかたがたのお力にはなりたいとは思っていますが、いわゆる“時の止まった感覚の先輩たち”として、事ある毎に、“昔取った杵柄”とばかりにしゃしゃり出て、不用意にあるいは興味本位で、面白おかしくはしゃぎ回って現役の方々の足を引っ張るような事やセルロイドのイメージダウンにつながるようなことに手を貸すつもりはありません。
 またこのセルロイド産業文化研究会はセルロイドに郷愁を持つお宅族が集まってノスタルジャに浸る場でもありません。
 この点は是非誤解のないようによろしくご理解願いたいと願っております。
 これまでの活動成果を活かして今年の3月にはセルロイドライブラリ・メモワ一ルハウスの横濱館を開所し公開する運びになっております。
 DJK INTERNATIONAL LTD.の社長岩井薫生さんが、セルロイドライブラリ・メモワールハウスの館長として、先代からの夢を賭けて、経済的にも研究会周辺の活動を支えておられます。
 私達は、セルロイドの主原料である硝化綿の製造も含め、セルロイドとその周辺に関わる事業を通じて、我が国の化学工業の立ち上げと、その確立・隆盛に多大の寄与と貢献をされた企業や業界・協会・学会の方々の見識と、それを支えられた方々のご努力に心から敬意を表し、感謝しながら研究会の作業をさせて頂く所存です。
 皆様におかれましても可能な限り情報や資料の提供などに御支援くださいますようにお願い申しあげます
 大切なきょう現在の価値観を基点として活動すれば“過去が未来の原動力になる”と信じてこのセルロイド産業文化研究会を運営していきます。
ダイセル化学工業(株)アドバイザー
参考文献
1) 甲斐 学:社名から消えた化学用語、大日本セルロイド株式会社からダイセル化学工業株式会社へ 化学48、47号(1993)  
2) セルロイド産業文化研究会技術委員会
セルロイド関連年表(2005)



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