見学記 |
松尾 和彦 |
東京産業考古学会15周年記念式典と「足尾銅山400年」見学記 |
去る平成22年10月16日、科博として親しまれている国立科学博物館の地球館三階講義室において東京産業考古学会15周年記念式典が開催されました。当日出席された六十名ほどの方々は会長の元国立歴史博物館教授田口勇様、初代会長で東京農工大学名誉教授の金子六郎様、三代目会長の帝京大学名誉教授山下甫様など、まさに「産業遺産の語り部」との呼び名が相応しい方々でした。 この席においてセルロイドライブラリ・メモワールハウスの岩井館長が表彰を受けました。御承知の通り横浜のセルロイドライブラリ・メモワールハウスは2005年3月25日に開館いたしましたが、その後2006年7月27日と本2010年7月22日の二回に渡って見学をいただきました。 セルロイドは世界最初の合成樹脂として開発され、その後現在に至るまでのプラスチックの先駆けとなったことは良く知られています。その意味におきましてもセルロイドは「生ける産業遺産」でして、岩井館長が表彰されました意義があるというものです。 表彰式の後には足尾銅山に関する講演が行われました。日本の代表的な鉱山である足尾銅山は慶長十五年(1610年)に徳川幕府の山として開かれて以来、本年で開鉱四百年を迎えました。 江戸時代末期には廃止寸前にまでなっていた同鉱山ですが、古河市兵衛による再開発の結果明治以降は日本で最大の銅山となりました。それと同時に発生したのが田中正造の天皇直訴事件などで知られる公害問題で、日本の公害問題の原点であると言われていることは良く知られています。 足尾公害の原因は精錬の際に発生する亜硫酸ガスだけでなく、伐採、鉱石を掘り出した後のズリなども関係していました。この影響は凄まじいものがあって谷中村が廃村に追い込まれたことは有名ですが、渡良瀬川の度重なる洪水なども引き起こしました。 この公害問題に関して古河側も決して手をこまねいていたわけではなく、防止対策を行っていたことを講演されたのが小野崎敏氏です。現在NPO法人足尾歴史館副理事長を務めている小野崎氏は日鉄鉱業(株)取締役、釜石鉱山(株)代表取締役社長などを歴任された根っからの鉱山屋です。 講演の資料として使われた多数の写真は、足利鉱山御用写真師として明治十六年(1883年)〜昭和四年(1929年)の間足尾銅山の写真記録を遺された祖父一徳氏が撮影されたものです。その中から選ばれたもので「明治三十年公害防止工事写真公開と解説」と題する講演を行われましたが、三代に渡って足尾を見守り続けられてきた方の話は、さすがと思わせる説得力がありました。 続いて「世界の中の足尾、日本の中の足尾」を講演された小出五郎氏は、つい最近までNHKの解説委員を務められていたのでお馴染みのある顔でした。ディレクターとして科学ドキュメンタリーを制作されていただけに足尾に興味を持たれていて、NHKの視点論点で国内外に発信を続けられて現地にも足を運ばれています。 小出氏の講演は主に足尾の現況、環境回復がどのように行われているかを中心としたものでした。植林を中心として行われている環境回復を資料とともに話されました。テレビの仕事をされていた方だけに話し方も上手く視聴者を飽きさせない工夫をされていました。 その後、質疑応答が行われましたが科学博物館の閉館時間が迫ってきたためにやむなく散会となりました。 今回は東京産業考古学会十五周年記念として行われたものですが、遠くない将来にセルロイドの講演を持ちたいものです。 |
著者の松尾 和彦氏は歴史作家で近世、現代史を専門とし岡山市に在住する。 |
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